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〈書評〉 聞きがたり北の大衆芸 (川嶋康男 著)

「芸人本書く派列伝 クラシック」 第18回

〈書評〉 聞きがたり北の大衆芸 (川嶋康男 著)
杉江 松恋

執筆者

杉江 松恋

執筆者プロフィール

北海道に生きた旅芸人の記録

 話楽生Webの読者のみなさんが誰も読んだことがない本の話をしたいと思う。

 この〈芸人本書く派列伝〉では、マイナーな本を紹介しがちなのだが、今回がいちばんかもしれない。川嶋康男『聞きがたり北の大衆芸』(1980年、みやま書房)である。

 みやま書房は、札幌市にある出版社である。アイヌ関連の図書などを刊行しているのだが、現在も存続しているかどうかはわからない。似た名前に群馬県の郷土資料を発行しているみやま文庫があるが、別物だ。

 川嶋康男は、1950(昭和25)年、北海道岩内郡岩内町の生まれで、会社員として働きながら、ルポルタージュを手がけてきた。権力や資本に対峙する民衆ではなく、そうしたことを思いもしない市井の人々の生き方に魅力を感じ、特に旅芸人のように失われつつあるものについては、誰かの個人史を浮かび上がらせることで、その世界を甦らせることが可能だ、と考えていたようである。

 北海道には、かの地に定着し、そこのみを生業(なりわい)の場とした旅芸人が多く存在した。彼らに取材して書かれたのが前著『北の昭和放浪芸』(1979年、太陽選書)であった。『聞きがたり北の大衆芸』は、その続篇である。

『北の昭和放浪芸』は全5章で構成されており、それぞれ門付芸人(かどづけげいにん)、都市の劇場役者、渡航芸人、紙芝居、旅回り一座の役者が扱われている。渡航芸人とは内地からよんどころない理由で北海道に渡った人々のことで、一例として浪華軒〆友(なにわけんしめとも)という浪曲師のことが紹介されている。話しているのは函館の道南芸能社・松井光雄という人物だ。