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〈書評〉 聞きがたり北の大衆芸 (川嶋康男 著)

「芸人本書く派列伝 クラシック」 第18回

名もなき芸人たちの意地と誇り

 客が入っても安心はできない。そもそもきっちりと開演時刻が決まっているわけではないので、ばらばらとやってくる。浪曲が始まっているのに、それをそっちのけで挨拶をする人もいるので、最初の一席は捨てて、人が揃ってからの二席目をじっくり聞かせるしかない。

 この二席目が終わるあたりで盆が回って祝儀が載せられる。好評であれば三席目、四席目と続き、また盆が回るということになる。

 浪曲師といえば、扇子に手拭いという芸人の小道具以外に、「テーブル掛け」も必要になる。中央の芸人のようにご贔屓(ひいき)に作ってもらえたりするわけではないので、もちろん自作であった。中にはテーブル掛けの代わりに、その家にあった毛布を使った芸人もいたという。

 たくましいと思ったのは、浪曲師と曲師のコンビで回るのは“上等”の部類に入り、自分で弾いての一人語り、中には三味線そのものがないという芸人もいたのだそうだ。どうするかというと、扇子でテーブルを叩いてリズムをとる。叩くところから「素ばたき」と呼ばれたそうで、その形で時には何時間も浪曲を聴かせていたというのは驚異的なことだ。

 川嶋はこう書いている。

 浪曲は、地方の芸である。東京・大阪の寄席よりも、地方都市の会場を回ったことで全国規模の人気を得た。だが、地方の浪曲にも濃淡があった。地方の劇場からも声がかからない座敷回りの芸人が浪曲文化を隅々まで伝えていた。そういう一面を『聞きがたり北の大衆芸』は教えてくれるのである。

(以上、敬称略)

▼杉江松恋 X

  • 書名 : 聞きがたり北の大衆芸
  • 著者 :川嶋康男
  • 出版社 : みやま書房
  • 書店発売日 :1980年
  • ISBN : ―
  • 判型・ページ数 : 四六判・234ページ
  • 定価 : ―

現在は絶版
  • 書名 : 北の昭和放浪芸
  • 著者 : 川嶋康男
  • 出版社 : 太陽
  • 書店発売日 :1979年
  • ISBN : ―
  • 判型・ページ数 : 四六判・212ページ
  • 定価 : ―

(毎月29日頃、配信予定)

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