今年も、自分を悟る一年に
「噺家渡世の余生な噺」 第9回
- 落語
柳家 小志ん
2026/01/14
三、「何をするか」ではなく「誰がするか」
私が初めて「悟り」という言葉を意識したのは、中学一年の時だ。
その悟りとは、「何をするかではなく、誰がするか」である。
小学校四年の図工の時間。優等生の級友が、いっぱいになったゴミ袋を毎回取り替えて先生に褒められていた。私は手間を省こうと、初めからゴミ袋を何重にも重ねて設置した。これなら満杯になったら、一袋ずつ引き抜くだけでいい。ところが教師は「横着するな!」と私を叱った。
数年後、中学一年の文化祭で、その優等生が私のその手法を使っていた。教師は「賢い!」と褒めた。ああ、人は「何をするか」ではなく「誰がするか」で評価されるのだと、妙に冷めた目で悟った。
それは噺家の世界でも変わらない。
私がジーンズにジャケット姿で出ていけば「中途半端な格好だ」と笑われ、洒落た師匠が同じ服装をすれば「粋だ」と称賛される。ポーターの鞄を提げれば「真似して買ったの?」と言われる。元々、持ち合わせていた品物だ。同じことでも、「誰がやるか」で天と地ほどの評価の差が出る。
その理不尽に、若い頃は腹を立てたが、今ではそれを笑いに変えられる自分に、また小さな悟りを感じている。
四、「品よく売る」ことの効能
噺家の世界では、披露目興行の前売り券を売る際、噺家はつい笑いを取りながら押し売りをしてしまう。
だが私は、それがどうにも好きになれなかった。芸を売る者が、芸を乞うように見えてしまうのだ。日頃から、私は提言していた。
「品よく売るほうが、品のいい客も増える」
だが、若輩の言葉など風に消えた。
ところがある日、師匠の柳家さん喬がこう呟いた。
「品よく売れば、程よく売れるんだよ」
その言葉が弾丸のように、協会全体に浸透した。
「何を言うかではなく、誰が言うか」――またしても、その通りだった。それでも私は腹を立てなかった。自分の言葉が、誰かの口を借りて形になったのなら、それでいいと思えたからだ。
ある企画の原案も、具現化も自分であったと自負している。それが今では形を変え、すっかり「スタンダード」になった。
だが、――「何をするかではない、誰がするか」だ。
表向きの立役者は、別の方になっている。それでも、あの仕組みが残り、人の役に立っているのなら、それでいいと思っている。
やがて、私が学生の頃から「これがいちばん理に適っている」と推奨してきたもの――「カレンダーや手帳の月曜始まり」や「眼鏡を使わぬ時に、後ろ掛けにするスタイル」をいつか著名文化人やスポーツ選手が何気なく行っていたら、自然と世に広まり、気づけば「定番」になっていくのだろう。
そして、その頃には、こう言われるに違いない。
「それ、真似してるんですか?」
実のところ、世の流行というものは、先駆けた者の名を残さず、後から気づいた誰かの功績になるようにできている。
それでも、心のどこかで願っている。――あの著名人の「さりげない後ろ掛け」の影には、昔の私の姿が、ほんの少しでも影を落としていてくれたら、と。
いま読まれています!
「コソメキネマ」 第十五回
漂泊の思ひやまず
~義理の父娘に人情を尽くすも、また恋が実らない寅さん映画をご紹介
港家 小そめ
2026/07/23
「エッセイ的な何か」 第14回
「生きていてくれ」と思いながら落語をやった夏
~真夏も真冬も、落語は熱い!!!
三笑亭 夢丸
2026/07/22
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第15回
〈書評〉 笑点出演者其俤 三〇〇〇回の記録と余禄 (神保喜利彦 著)
~ページを開けば、昭和の日曜夕方が帰ってくる。読むほどに『笑点』がもっと好きになる“非公式”ガイド
杉江 松恋
2026/07/20
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった一人の噺家への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第1回
流麗にして弁舌 一龍斎貞鏡 (前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/05/29
「講談最前線」 第23回
2026年7月の最前線 【前編】 (講談界の襲名について考える)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/07/17
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第11回
オシャレは落語家を変える
~バレたら破門の危険なオシャレ!?
桂 三四郎
2026/06/28
「講談最前線」 第24回
2026年7月の最前線 【後編】 (聴講記:講談協会定席 / 講談『太閤記』小考④)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/07/18
「エッセイ的な何か」 第13回
6月26日は、露天風呂の日 →全裸のおじさんに囲まれた“おじさん”を見つめる男の苦笑
~湯けむりの向こうに、シュールな光景があった
三笑亭 夢丸
2026/06/24
月刊「浪曲つれづれ」 第8回
2025年12月のつれづれ(天光軒新月・五月一秀二人会、京山幸太・東京独演会)
~心斎橋角座、奇跡の一夜
杉江 松恋
2025/12/09
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった一人の噺家への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
「講談最前線」 第23回
2026年7月の最前線 【前編】 (講談界の襲名について考える)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/07/17
シリーズ「思い出の味」 第25回
芸とともに受け継がれる一門伝統の味
~人を思い、芸を磨き、心をつなぐ伝統の味をほのぼのと綴った、食のエッセイ
露の 五九洛
2026/07/19
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第41回
一途に講談を生きる 田辺いちか(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/07/14
「エッセイ的な何か」 第14回
「生きていてくれ」と思いながら落語をやった夏
~真夏も真冬も、落語は熱い!!!
三笑亭 夢丸
2026/07/22
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第42回
一途に講談を生きる 田辺いちか(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/07/15
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第43回
一途に講談を生きる 田辺いちか(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/07/16
「講談最前線」 第24回
2026年7月の最前線 【後編】 (聴講記:講談協会定席 / 講談『太閤記』小考④)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/07/18
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第11回
オシャレは落語家を変える
~バレたら破門の危険なオシャレ!?
桂 三四郎
2026/06/28
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第15回
〈書評〉 笑点出演者其俤 三〇〇〇回の記録と余禄 (神保喜利彦 著)
~ページを開けば、昭和の日曜夕方が帰ってくる。読むほどに『笑点』がもっと好きになる“非公式”ガイド
杉江 松恋
2026/07/20
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった一人の噺家への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
「令和らくご改造計画」
第十二話 「荒れるチラシ」
~最近の前座さんたちは、時々おかしい
三遊亭 ごはんつぶ
2026/07/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第11回
オシャレは落語家を変える
~バレたら破門の危険なオシャレ!?
桂 三四郎
2026/06/28
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第41回
一途に講談を生きる 田辺いちか(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/07/14
「二藍の文箱」 第14回
三遊亭小歌という落語家がいた
~忘れないでほしい、日の当たらない道を好む藝人もいることを
三遊亭 司
2026/07/02
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第42回
一途に講談を生きる 田辺いちか(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/07/15
月刊「シン・道楽亭コラム」 第15回
彦八まつり、芸協らくごまつり、謝楽祭 ~三大祭を全部巡って見えた、それぞれの魅力
~同じ落語のお祭りなのに、三者三様の魅力が面白い。現地で感じた熱気と空気感をお届けします!
シン・道楽亭
2026/07/10
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第43回
一途に講談を生きる 田辺いちか(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/07/16
「講談最前線」 第23回
2026年7月の最前線 【前編】 (講談界の襲名について考える)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/07/17
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第15回
このまま宇宙一を名乗っていて良いのか?
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/07/03
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった一人の噺家への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第11回
オシャレは落語家を変える
~バレたら破門の危険なオシャレ!?
桂 三四郎
2026/06/28
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
編集部のオススメ
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第11回
オシャレは落語家を変える
~バレたら破門の危険なオシャレ!?
桂 三四郎
2026/06/28
「エッセイ的な何か」 第13回
6月26日は、露天風呂の日 →全裸のおじさんに囲まれた“おじさん”を見つめる男の苦笑
~湯けむりの向こうに、シュールな光景があった
三笑亭 夢丸
2026/06/24
「くだらな観音菩薩」 第14回
烏瑟沙摩明王(うすさまみょうおう)
~叱るより先に、話を聞いてあげたい
林家 きく麿
2026/06/16
「令和らくご改造計画」
第十一話 「塀の中」
~最近の前座さんたちは、時々おかしい
三遊亭 ごはんつぶ
2026/06/13
月刊「シン・道楽亭コラム」 第14回
小学校で10年間、落語を読み聞かせしてわかったこと ~子どもたちにウケた噺ベスト3+番外編
~子どもたちは正直だった。だから落語の本当の面白さが見えた
シン・道楽亭
2026/06/10
「座布団の片隅から」 第14回
旅路(上)
~噺家3人の珍道中! 笑いと涙と二日酔いの落語ツアー前半戦
三遊亭 好二郎
2026/06/07
「二藍の文箱」 第13回
地図にない街、地図にない店
~京都、新宿、上野、浅草、池袋。師匠と行った名店の記憶
三遊亭 司
2026/06/02
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25