〈書評〉 ひつじ旅 落語家欧州紀行 (春風亭昇羊 著)
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第9回
- 落語
- Books
杉江 松恋
2026/01/17
「ほう」と言いたくなる人、春風亭昇羊
この旅で昇羊は、現地のさまざまな人と出会う。
ウィーンでは「愛弓さん」と「マチさん」という女性に世話になるのだが、初対面のマチさんは意外なことを言いだす。その夜にオーストリア対トルコの試合があるのだが、愛弓さんは自宅で夫とそれを観戦し、マチさんはバーで日本人の仲間と観る。「どっちか選んで」と言われるのである。「今夜、どちらか一方とサッカー観戦をすることは避けられないらしい」と昇羊は思う。こういう唐突な出来事が、おそらく慣習や文化の違いに因むものとしてところどころで起きる。
全体に春風亭昇羊という落語家の人格が出ていて、好ましい本だと思った。ちなみに昇羊は酒も煙草も嗜まないし、コーヒーも紅茶も飲まない。「なにが楽しくて生きているのか、自分で不思議になることがある」と本人は書く。
春風亭昇羊。1991(平成3)年、神奈川県横浜市旭区出身の落語家である。落語芸術協会会長・春風亭昇太に2012(平成24)年に入門、2016(平成28)年、二ツ目に昇進した。
二ツ目になったばかりのころに初めてお会いした。春風亭鯉津(現・鯉づむ)さんとの二人会をお手伝いする機会があったのだ。そのとき少しだけ話して、読書家だということを知った。もしかすると本の話ぐらいしかしていないかもしれない。
昨年お願いしたゲストの仕事というのは、薩摩琵琶(さつまびわ)鶴田流・川嶋信子さん主催の「文学を語る 日本の話芸」という会で、四つの話芸で原作のある文学を語るという主旨のものだった。ほかに講談の神田伊織さん、浪曲の港家小そめさん・沢村博喜さんが出て、昇羊さんは井上ひさし原作「質草」を口演した。春風亭昇羊と井上ひさしという組み合わせに私は、ほう、と思った。今回も春風亭昇羊のヨーロッパ旅行記という趣向に、ほう、と感心した。
今後も、ほう、と感心させる落語、そして文章を期待したい。
(以上、敬称略)
▼春風亭昇羊 X(旧Twitter)
(毎月19日頃、掲載予定)
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