〈書評〉 ひつじ旅 落語家欧州紀行 (春風亭昇羊 著)
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第9回
- 落語
- Books
杉江 松恋
2026/01/17
そっと薦めたい旅の話
そこはかとなく面白い本であった。
そこはかとなく、というのも変な言い方なのだが、呵々大笑、という感じではなく、歩調を乱さずひたひたと行くような文体なのである。では笑うところはないのかと言えば、ところどころでくすっ、という声が漏れる。ページをめくって文章を読むのが楽しい本とでも言えばいいのかな。こういう穏やかな本が私は好きである。
読んだのは、春風亭昇羊『ひつじ旅 落語家欧州紀行』(紅色社)だ。私は東京都内の大型書店で購入した。2025年2月28日の第2刷で、第1刷は同年の1月1日刊行になっている。
2024年に昇羊さんにある会へのゲスト出演を頼んだ。快諾いただいたので、しばらくSNSなどでやりとりがあった。そのうちにこの本が出るということが発表され、読みますよ、と投稿したら直接、ありがとうございます、という返答があった。あったのだけど、それからしばらくは本が通信販売しかなかったので手に入らず、新刊として紹介するような時機を逸してしまったのであった。
きっと、調子がいいことを言っているけど読んでないのだろうな、と思っていたのではないか。いや、読みましたよ、昇羊さん。
昨年の正月に出た本を、本年最初に紹介するというのも気が引けるが、2025年の忘れ物なので許していただきたい。
これは春風亭昇羊が単身ヨーロッパに渡航し、5回の公演を行った旅について記した本である。「序」になぜヨーロッパに行くことになったか、という経緯が書かれている。欧州行の仕事を持ちかけられて、その気になり航空券の手配までしたのに梯子を外されてしまい、というところからまず御難(ごなん)である。
その後、協力してくれる人があったようで、無事に公演が決まり、落語家の仕事としてヨーロッパに行けることになる。巻末に一覧が載っているのだが、ウィーン大学やベルギー大使館も含まれていて、結構すごい。いい支援者に恵まれているのだろうな、と思う。
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