鼻の中 そこのけそこのけ お水が通る
「朝橘目線」 第10回
- 落語
三遊亭 朝橘
2026/02/08
先日、ドンキでノーズスティックをどっさり陳列した棚を見かけた。
そこには「世界中で10億本売れた」と書かれていた。大ヒット商品である。ところが、だ。私以外でこれを使っている人を、ついぞ見たことがない。他国でバカ売れなだけで、日本では売れないのか? だとしたらドンキはあんな大々的にコーナーを設けないはず。花粉症の時期なんてそれこそ、国民総二本挿し月間になったっておかしくない。でも誰もやってない。
楽屋でこれを挿していると、ひどく奇異な目で見られる。この商品の、認知度の低さが分かる。商品自体はきちんと売れていて、普通はこっそり鼻にかざすだけで、人前で堂々と鼻に挿すバカはいない、という可能性もなくはない。でも愛用者の私は知っている。かざすだけで満足できるほど、人は強くないことを。スティック鼻挿し界隈の同志はこっそりで良い、一報入れてほしい。
そこまで言うならもう「スティック推し」だろうと思うかもしれないが、推すほどでもない。鼻スースーは、所詮対処法。より良い鼻ケア法を求め続けた。
そして、その日は来た。一昨年、妻が副鼻腔炎で声をやられた。その時、耳鼻科で薦められて購入したのが、鼻うがい用のポンプだった。東京鼻科学研究所という会社の製品で、その名も「ハナクリーン」だ。塩水を入れるポンプに温度計もついている。40~42℃が鼻うがいには良いらしい。
専用の粉末をぬるま湯で溶かす。ポンプの先にチューブがあり、それを鼻に挿す。「えー」と声を出しながらポンプを握る。洗浄液が鼻から入り、もう片方の鼻、もしくは口から出てくる。「えー」は耳に水が入るのを防ぐためらしい。
妻が使うそれを借りてみた。これまでの失敗が頭をよぎった。どうせこれもだめだろう……やって驚いた。あれだけ入りにくかった洗浄液がスルッと流れ込んでいく! 鼻腔内が洗浄されるのが、触感で分かる! じいちゃん、これだよ! ……初めてロケット打ち上げに成功した時のNASAの職員も、こんな感じだったのだろうか。細菌も汚物も、過去の苦い思い出も、きれいに洗い流してくれた。
シン鼻うがいと出会った瞬間だった。

あれ以来、毎朝起きてからと、夜帰宅した時に鼻うがいをしている。ネットで調べたら、やりすぎも良くないらしい。一日二度までならOKとのこと。あまりに快適なので、楽屋で人に勧めている。文字通り「推し」ている。大体みんな、痛そうと言う。塩分濃度さえ間違えなければ、絶対に痛くない。物は試し、落語家はみんな、鼻うがいをやった方が良い。
我々は高座に上がって冒頭「えー」と言いがちだが、なんでもあれを英語で「フィラー」とか言うらしい。先日、SNSで落語家のフィラー、「えー」が味がある、好きだ、などという投稿を見かけた。賛同するコメントも多数ついていた。落語家諸君、「えー」が求められている。
鼻うがいをしよう。きっと誰かの「推し」になれるはず。

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