〈書評〉 小麦畑できみが歌えば (関かおる 著)
「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第9回
- 落語
- Books
笑福亭 茶光
2026/02/27
届かなかった声の、その先へ
オーディションといえば、テレビ番組の『細かすぎて伝わらないモノマネ』のオーディションを受けたことがある。
私はモノマネが苦手だ。しかし、当時は誰でも参加できるオーディションを選り好みするような時代ではなかった。無理矢理、自分にできるモノマネを絞り出し、オーディションを受けるためにフジテレビへ向かった。
控室には、このオーディションに心血を注いでいる芸人たちが様々な衣装に身を包み、メイクや小道具に工夫を凝らし、ぶつぶつと独り言のように練習を繰り返している。
名前を呼ばれ、別室に通される。
数名の番組スタッフと記録用のカメラの前で、用意してきたモノマネを披露する。私は必死で絞り出した渾身の“細かすぎて伝わらないモノマネ”を披露した。
モノマネを終えると、スタッフの一人がおもむろに口を開いた。
「今日、君で20人目だよ。半沢直樹」
当時、日曜劇場『半沢直樹』が大ヒットしていた。私のオーディション開始時刻は、夕方頃だった。朝から100人以上のモノマネを見てきているのだろう。この人たちは、この小さなオーディション会場の一室で、私の前にすでに19人の「倍返しだ!」を喰らっていたのだ。
私は潔く、「すみません。ありがとうございました」とネタ披露を終え、会場を後にした。スタッフの一人が「それだけ!? それだけで来たの!?」と、驚いていた。
もちろん、この小説にはそんないい加減な参加者は出てこない。
オーディションという人生を賭けた場面、物語と登場人物の熱量に引き込まれる。美しい文章からは、まるで音楽が聴こえてくるようだ。
続編が出るなら、私は初日に買いに行く。
紆余曲折あり、年齢と経験を重ね、私は今落語の世界で夢を追っている。芸の形は変わったが、信念はぶれていないと思っている。唯吹の歌声のように私の落語もどこまでも遠く、たくさんの人に届けば嬉しい。
しかし、ボイトレのしすぎで、オペラのような落語になってしまい、
「こ~~~んに~~~ちは~~~~~~!」
「お前か~~~いな~~~~、まぁまぁ~こっち上がり~~~~~~!!」
と、リアルに遠くまで届く落語をやり始めた時は、「発声が良くなりすぎている!」と、私の頭を手前に引っ張り、正しくない姿勢にしてほしい。
▼笑福亭茶光 X

- 書名 : 小麦畑できみが歌えば
- 著者 : 関かおる
- 出版社 : KADOKAWA
- 書店発売日 : 2025年11月
- ISBN : 9784041164464
- 判型・ページ数 : 四六判・224ページ
- 定価 : 2,035円(本体1,850円+税10%)
(毎月1日頃、配信予定)
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