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〈書評〉 どうせ世界は終わるけど (結城真一郎 著)

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第12回

でも、いい

 先日、らくごカフェさんで『新作火曜会』という新作落語の会に出させていただいた。

 出演者は、三遊亭天どん師匠、円丈師匠、茶光。

 開演前舞台袖の楽屋に控えていると、キャピキャピとした若い女性の声が聞こえてきた。声に潤いと張りがあり、あまり落語会では聞こえてこない瑞々しさがある。

 こんなことで怒る了見の狭い演芸ファンはいないので大丈夫だ。

 「落語聴くの初めてなんです~!」

 現在放送中のアニメ『あかね噺』に、らくごカフェをモデルにした「らくご喫茶」というのが描かれている。

 そのため、らくごカフェには時折、アニメファンが聖地巡礼?のようにフラッと落語会デビューしに来るらしい。

 この女性もあかね噺のファンらしい。

 おそらく隣に座っているのであろう落語ファンの女性が優しく女性に語りかけている。

 「今日は新作落語の会なのよ」
 「私、『饅頭怖い』しか知りません!」
 「落語は難しいものじゃないからね」
 「楽しみです!」

 新しいファンを優しく迎え入れ、演芸沼に沈めようとしてくれている。この演芸ファンの女性は手練れに違いない。きっとマルチ商法に手を出しても幹部クラスまで上り詰める逸材だ。

 舞台袖の楽屋で微笑ましいやり取りに聞き耳を立てながら天どん師匠に話しかける。

 「あかね噺効果、すごいですね」
 「人気あるんだね~」

 天どん師匠も目は携帯の野球結果に釘付けになりながらも、しっかり聞き耳を立てている様子で応えてくれる。

 演芸ファンの女性に心の中でエールを送る。

 頑張れ! 若いファンを演芸沼に引きずり込んでくれ!

 「落語、面白いから色々聴いてね」
 「はい!」
 「ごはんつぶさんの会に行きなよ」

 ――え?

 瞬間、釘付けになっていた携帯画面から顔を上げた天どん師匠と目が合う。

 天どん師匠が一言、

 「今日ごはんつぶ、いたっけ?」

 私はすかさず答える。

 「一粒もいません」

 若い新たな女性ファンを逃すまいと、マルチ商法幹部演芸ファンが弾き出した最適解は、今日の出演者ではない、若くて華もあり勢いのある若手落語家『三遊亭ごはんつぶ』を勧めることだったのだ。

 でも、いい。誰のファンになったっていい。演芸ファンが増えることが大事なのだ。事実、最適解の一つではないだろうか。

 演者もファンもこの世界が終わるのを少しでも先延ばしにするための一つのチームなのだ。

 だから私も新たに落語に興味を持った女性には伝えていきたい。

 「どうせ世界は終わるけど、ごはんつぶさんを聴きなさい」

(文中、敬称略)

笑福亭茶光 X

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  • 書名 : どうせ世界は終わるけど
  • 著者 : 結城真一郎
  • 出版社 : 小学館
  • 書店発売日 : 2025年6月
  • ISBN : 9784093867542
  • 判型・ページ数 : 四六判・336ページ
  • 定価 : 1,870円(本体1,700円+税10%)

(毎月1日頃、配信予定)

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