NEW
百川、 お菊の皿、 ねずみ
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十四回
- 落語
林家 はな平
2026/06/06
四十一席目 お菊の皿 (おきくのさら) ★★
[ワンポイント]
幽霊が出てくる噺は、すべて怪談なのだろうか。実は落語には、幽霊や妖怪が登場しながらも、怖がらせるより笑わせることを目的にした噺が少なくない。この噺もその代表格である。有名な怪談「番町皿屋敷」を題材にしながら、最後は思わず吹き出してしまう方向へ着地する。
◆【あらすじ】
町内の若い衆が、隠居から番町皿屋敷(ばんちょうさらやしき)の怪談について教わる。
昔、番町に青山鉄山(あおやまてっさん)という旗本がいて、美しい女中のお菊に惚れたが振られたため、腹いせに家宝の十枚一組の皿を一枚隠して、因縁をつけて殺して、井戸に投げ入れてしまう。
それから毎晩のように、お菊の幽霊が現れては「一枚、二枚、三枚……九枚」と皿を数える。これが元で、青山鉄山も狂い死にしてしまう。伝承では、九枚という数を聞くと狂い死にすると言う。
これを聞いた若い衆は、怖いとは思いながらも美しいお菊の幽霊見たさに、番町皿屋敷までやってくる。
話の通りに井戸の中からお菊の幽霊が出てきて「一枚、二枚……」と皿を数え始めるが、九枚まで聞くと死ぬと言われているので、六枚まで数えたところで慌てて逃げ出す。
それから同じような連中が増え、美しいお菊さんを見ようと見物客が大勢来るようになる。興行主まで現れ、土産を売ったり、入場券まで販売したり、連日の興行を打つようになる。
そんなある日、満員御礼の中でお菊がいつものように皿を数え始める。六枚まで来たところで、逃げようとするが大勢の客がいることで逃げることができない。七枚、八枚と勘定は続く。そしていよいよ九枚まで来てしまう……
◆【オチ】
客「九枚だーーー! あーーー!!」
お菊「十枚、十一枚、十二枚……」
と勘定は続き、
お菊「十八枚。おしまい」
と十八枚まで来てしまう。
呆れた客がお菊に尋ねる。
客「お菊の皿ってのは、九枚と相場が決まってんだ。なんだって倍の十八枚も数えるんだ」
お菊「わからないかねぇ。明日、お休みするんだよ」
◆【解説】
「明日も九枚まで数えるつもりだったが、明日は休むので今日まとめて、皿を十八枚数えた」ということであるが、たまにオチの意味がわからずに尋ねられることがあるので★★とした。
それを補足するために、「明日休むから、今日まとめて数えた」というニュアンスをオチに入れ込む演者もいるようだが、私はオチはシンプルにしたいので説明は少なくしている。
本当は「わからないかねぇ、明日お休みするんだよ」も「明日休むんだよ」くらいスパッと行きたいところだが……。
主人公たちが、皿の数を九枚どころか十八枚まで聴いているのに、結局死なない理由はわからない。いわゆる怪談噺というジャンルなので、枕で幽霊の噺などをする場合が多い。
さて、その怪談噺だが、これについて話したい。
この「怪談噺」というカテゴリーだが、とても広いように思える。「怪談」という言葉に潜む意味は「怖い」ということだと思う。なので、怪異を扱った噺、つまり幽霊やお化けなどの出てくる噺を「怪談噺」としている。『お菊の皿』も幽霊が出てくるので、立派な怪談噺である。
じゃあ『お菊の皿』は怖いのか? 答えは、ノーである。むしろ演者は滑稽噺のように演じている。
ほかにも『のっぺらぼう』『質屋庫』『死神』『一眼国』など、怪談噺とカテゴライズされそうな噺はいくつかある。しかし、これらの噺も「怖さ」よりは「笑い」の方が前に出ているように思える。『死神』はオチこそ不気味だが、内容は滑稽噺だと思う。
純粋に怪談噺と言えそうなのは、『真景累ヶ淵』『怪談牡丹灯籠』『怪談乳房榎』『江島屋騒動』『もう半分』などだと私は思う。これらの噺は「怖さ」を前に出した噺だ。つまり怪談噺には怖さ寄りのものと、笑い寄りのものがあるというわけだ。
そこで私なりに、怪談噺をさらに二つに分けてみた。
●怪談噺……怖さを求めてやる噺
●お化け噺……怪異を扱っているが、怖さより笑いを求めてやる噺
オチとは関係ないが、誰が使うかもわからない分類をしてみた。
いま読まれています!
古今亭佑輔とメタバースの世界 第10回
リアルインスタンスレポート ~20代・30代が集まる落語会の正体
~仮想と現実の境界線の先に見えた、落語のあたたかな可能性
古今亭 佑輔
2026/06/05
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十四回
百川、 お菊の皿、 ねずみ
~演者の視点から、オチの仕掛けや工夫を楽しく解説!
林家 はな平
2026/06/06
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第14回
ウケるごとに極まっていくその美貌
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/06/03
「二藍の文箱」 第13回
地図にない街、地図にない店
~京都、新宿、上野、浅草、池袋。師匠と行った名店の記憶
三遊亭 司
2026/06/02
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第12回
〈書評〉 どうせ世界は終わるけど (結城真一郎 著)
~終末へ向かう世界で希望を紡ぐ人々の物語
笑福亭 茶光
2026/06/01
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第38回
新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/30
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第一回
道灌、 あたま山、 芝浜
~演者の視点から、オチの仕掛けや工夫を楽しく解説!
林家 はな平
2025/05/06
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「二藍の文箱」 第13回
地図にない街、地図にない店
~京都、新宿、上野、浅草、池袋。師匠と行った名店の記憶
三遊亭 司
2026/06/02
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第14回
ウケるごとに極まっていくその美貌
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/06/03
「テーマをもらえば考えます」 第10回
半袖の長ズボン
~6月1日は、衣替え。落語家の着物事情から冬の半袖問題、パワーショルダー論まで飛び出す脱線エッセイ!!!
三遊亭 天どん
2026/05/31
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第39回
新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/31
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第38回
新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/30
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第40回
新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/06/01
「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第12回
〈書評〉 どうせ世界は終わるけど (結城真一郎 著)
~終末へ向かう世界で希望を紡ぐ人々の物語
笑福亭 茶光
2026/06/01
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
古今亭佑輔とメタバースの世界 第10回
リアルインスタンスレポート ~20代・30代が集まる落語会の正体
~仮想と現実の境界線の先に見えた、落語のあたたかな可能性
古今亭 佑輔
2026/06/05
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
月刊「シン・道楽亭コラム」 第13回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト Part.3
~橋本さん亡き後に立ちはだかった超大型の壁
シン・道楽亭
2026/05/10
シリーズ「思い出の味」 第6回
茶色いうどん
~自分の未来を見つめる8歳の少年
三遊亭 ごはんつぶ
2025/06/25
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第38回
新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/30
シリーズ「思い出の味」 第11回
食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
~焼肉は落語
桂 笑金
2025/08/17
「令和らくご改造計画」
第十話 「オチログ」
~前座が作った落語家レビューアプリ「オチログ」を巡る狂騒。ブラックユーモア満載の笑撃作!
三遊亭 ごはんつぶ
2026/05/15
「くだらな観音菩薩」 第13回
願成就院の毘沙門天
~運慶が作った仏像に心が震えた、きく麿師匠。その一方で…
林家 きく麿
2026/05/16
「二藍の文箱」 第13回
地図にない街、地図にない店
~京都、新宿、上野、浅草、池袋。師匠と行った名店の記憶
三遊亭 司
2026/06/02
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
シリーズ「思い出の味」 第19回
雪のココア
~内弟子時代に憧れた甘い味
柳家 わさび
2026/01/13
編集部のオススメ
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「令和らくご改造計画」
第十話 「オチログ」
~前座が作った落語家レビューアプリ「オチログ」を巡る狂騒。ブラックユーモア満載の笑撃作!
三遊亭 ごはんつぶ
2026/05/15
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第13回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト Part.3
~橋本さん亡き後に立ちはだかった超大型の壁
シン・道楽亭
2026/05/10
「座布団の片隅から」 第13回
声優
~話題の人気アニメ『あかね噺』で声優デビューさせていただきました!
三遊亭 好二郎
2026/05/07
「ずいひつかつどお」 第10回
なぽりたんといっしょ
~つまり、ナポリタンはボヘミアン・ラプソディなのである
立川 談寛
2026/05/04
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第13回
芸人、変な人多い
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/05/03
「二藍の文箱」 第12回
午後の逡巡
~その街に息づいた食堂で、ひとり手酌もまた愉し
三遊亭 司
2026/05/02
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25