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百川、 お菊の皿、 ねずみ

「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十四回

四十二席目 ねずみ (ねずみ) ★★★

[ワンポイント]
かつて大店の主人だった男が、今は小さな宿で息子と暮らしている。客に問われるまま、その半生を静かに語り始める。派手な出来事よりも、その一人語りに味わいのある噺だ。積み重ねられた人情が最後に鮮やかな笑いへと姿を変える。

【あらすじ】

 奥州仙台の宿場にて、ある旅人が客引きの子供に誘われて「ねずみ屋」という小さなみすぼらしい宿に泊まる。布団も飯もろくになく、腰の立たない主の宇兵衛(うへえ)と十一歳の子供と二人でやっている貧しい宿であった。

 旅人がこの宿について宇兵衛に尋ねると、その経緯について話し始める。

 実は宇兵衛は、もともと向かいにある「とら屋」という大きな宿の主人だったが、五年前に妻に先立たれ、女中頭(じょちゅうがしら)を後妻に迎えた。ある日、とら屋の二階で客同士の喧嘩があり、その仲裁に入ったことで宇兵衛は腰を打ち、腰が立たなくなったことで、迷惑になると考えて物置小屋に息子と移る。

 しばらくは日に三度の食事が運ばれていたが、徐々に減り、とうとう食事が来なくなったので、息子に取りに行かせると、後妻は「腰抜けの面倒を見ていられるか」と息子に暴力を振るうなど、辛く当たるようになる。しかも後妻は番頭といい仲になっていた。

 この状況を不憫に思った、宇兵衛の友人の生駒屋(いこまや)が二人の面倒を見てくれるようになる。しかし息子は、「生駒屋さんにいつまでも面倒を見てもらったんじゃ悪い。ここにお客に泊まってもらって、宿賃をもらえば、親子二人はなんとか暮らせるよ」と、物置小屋を少し仕立てて宿にし、物置に住んでいた鼠にちなんで「ねずみ屋」と名付けて商売をするようになったという。

 この一連の経緯を聞いた旅人は、自分は世に知られた彫刻職人・左甚五郎(ひだりじんごろう)だと正体を明かす。そして木彫りの鼠を彫り、これを店先に置いて宿を後にする。この木彫りの鼠は、生きているかのように盥(たらい)の中を動き回り、これが評判となって、ねずみ屋が繁盛するようになる。

 一方、客足が遠のいた向かいのとら屋の主人(後妻といい仲になった番頭)はこれに対抗して、仙台の名匠である飯田丹下(いいだたんげ)に虎を彫らせることにした。甚五郎と因縁もあった飯田は虎を彫り上げ、二階の屋根から鼠を見下ろすように据えた。すると今まで動き回っていた鼠が動かなくなってしまう。

 しばらくして、手紙をもらった甚五郎がねずみ屋にやってくる。やはり、鼠は動かない…… 

【オチ】

 とら屋の虎を見る甚五郎。その虎は目に恨みを持っていて、額に虎を表す王の字も見えず、とても良い出来とは思えない。

甚五郎「鼠。わしは魂を込めてお前を彫り上げたつもりだ。それなのにあんな(出来損ないの)虎が怖いのか?」
鼠「あれ虎ですか? 猫かと思った」

【解説】

 
 最後のオチのために語っている噺と言ってもよい名作。

 元々は浪曲のネタなので、人物名も具体的なものが多く、宿屋の主人が語るエピソードも折檻(せっかん)の話があったり、少し生々しいものになっている。

 左甚五郎は、謎が多い人物である。同じ時期に日本の別の場所で左甚五郎が彫ったものがあったりするようで、いわば「左甚五郎」はアイコンに近いのかもしれない。今のバンクシーのようなものかもしれない。いや、違うかもしれない。

 鼠を彫る時に、自分が甚五郎だと明かして彫る場合と、明かさないで彫って、後から通りすがりの人が気がつくパターンとあるが、私は前者の方でやっている。

 この噺の眼目は、宿屋主人の「一人語り」だと思う。ねずみ屋ができるまでのエピソードだが、息子が折檻されたり、悲しい話になっているので、あまり感情を込めすぎずに淡々とやるように心掛けている。

 辛い話を本当に辛い感じで喋ると、自分もお客様も辛くなりそうなので、あくまでも淡々と余白を持たせた方が、残りはお客様の感じたままに任せられる。

 一人語りが終われば、『裸の大将放浪記』の流れそのままに大団円を迎えたい。今まで一度も喋らなかった鼠が一言言ってオチになるというのもオシャレである。

 ちなみに私にとっての山下清役は、芦屋雁之助(あしやがんのすけ)である。

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(毎月6日頃、配信予定)

演目一覧(2026年6月時点)

あ行 明烏 あたま山  井戸の茶碗 牛ほめ お菊の皿
か行 片棒 看板のピン 紀州 きゃいのう 金明竹 甲府い 子別れ 権助魚
さ行 真田小僧 七段目 芝浜 寿限無 崇徳院 粗忽長屋 ぞろぞろ
た行 大工調べ たいこ腹 たがや 狸札 短命 茶の湯 壺算 つる 転失気 道灌 時そば
な行 にらみ返し 抜け雀 ねずみ 寝床 野ざらし
は行 不動坊 堀之内
ま行 まんじゅう怖い みそ豆  百川
や行 淀五郎
ら行
わ行