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一途に講談を生きる 田辺いちか(中編)
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第42回
- 講談
新たな演目への夢
―― 私はいちかさんと会って、しばらく経った頃に、「田辺には台本が少ないから、何かいい話がないか探しているんですよ」と話していたのをとてもよく覚えています。それは今の話に繋がることでもあったんですね。
いちか 兄弟子の凌鶴(りょうかく)、姉弟子の一乃(かずの)、また一門の先生方にしても、みんな作るということが当たり前なのが田辺派なんですよね。だから二ツ目になって、神田愛山(あいざん)先生にお稽古をつけてもらえるようになって、目の前で聴かせていただいて……というのが、ものすごく新鮮でした。
―― 愛山先生も「あの頃、ほかの一門で自分のところへ稽古に来る人は少なかったのに、ある日、いちかがやって来て、『敵討母子連れ(かたきうちおやこづれ)』を教えてくださいと言ってきた時に、そこに目を付けたか!」というようなことを嬉しそうに話していました。
いちか 先生の話はどれも大好きで、いつか『骨の音』も教えていただきたい。
―― いちかさんの声や雰囲気にも合っていると思います。
いちか 私はあの時代感、ちょっと昔の時代感に声が合うと言われることがあるので、しびれるほど大好きな話なので、いつかお願いできたらと思っています。
「SPACE107」は住所で言えば、新宿区西新宿。再開発の進んでいる地なので、目印となる建物がどれだけ残っているか……ではあるが、プラザ通りに面した地下2階にあった180人前後を収容する劇場であった。1986年(昭和61年)に開館し、2014年(平成26年)4月に閉館した。

次に、いちかがこれから挑んでいきたいこと。そして読みたい話。今、考えていることに迫ってみた。
―― これから読んでいきたい話や、今、目を付けている話はありますか。
いちか 披露目の準備にかかりすぎていて、余裕がないというのが実情です。今、(一龍斎)貞花先生に教えていただいた『忠僕直助(ちゅうぼくなおすけ)』を何度も何度も読んでいるのですが、五代目の(一龍斎)貞丈先生の音を聴いていると、寄席サイズに短くして読んでいるんですよ。「こういうことをされていたんだ! すごい」と思っています。
ハイライトシーンにスポットを当てて、前半はパパパッと説明して、あのコンコンコンコンというところをガーッとやって、15分でバッとやってて、カッコイイ!って。
―― 擬音ばかりで、これを読んでいる人にはわかりにくい(笑)。
いちか 耳に心地よくて、言葉が明晰で、全然急ぐことなく、何が起こっているのかがわかる。テンポもものすごく速いんですが、心地よい音なんです。昔の講釈師の先生方はこうやって寄席でも読んでいたんだなあと勉強になります。私も今、鈴本さんに入らせていただくこともありますし、寄席でも活躍される(宝井)琴調先生から一席を15分にするご苦労をうかがったこともあります。
また寄席は連携プレーですから、開口一番からの流れや空気を壊さずに、どうすれば自分の講談が読めるのかというのが課題です。渡ってきたバトンを受け取らせていただき、その空気の中で、私の高座で講談というものを知っていただく。もちろん時間も調整しなければなりませんが、ものすごく楽しくて、最高の場だなと感じています。
―― 私は五代目ではなく、六代目の貞丈先生に間に合ってはいるので、新宿末広亭や池袋演芸場での高座を見ていますが、釈場に行けば30分とか40分かけて読む時がある『瓢箪屋政談(ひょうたんやせいだん)』や『相馬大作(そうまだいさく)』といった話を、やはり13~14分で聴かせていたのを覚えています。落語を中心とした寄席であると、講談の、特に小難しい話は聞いてもらえないこともあるでしょうから、いちかさんが映える15分の話を見つけていく必要もあるでしょうね。
次回の〈後編〉では、「講談が面白くて仕方がない」と語る田辺いちかの現在地に迫ります。創作への飽くなき探究心、真打を控えた今だからこその葛藤、やがて弟子を育てる側になる覚悟、そして受け継いできた講談を決して目減りさせず次世代へ渡したいという強い思いまで。芸に人生を懸ける一人の講釈師の言葉を、ぜひ最後までお読みください。
(文中、敬称略)

▼田辺いちか(講談協会 公式ホームページ)
▼田辺いちか オフィシャルサイト
▼田辺いちか X
(後編に続く)
前回はこちら
編集部のおすすめ記事です(いちかさんの妹弟子、田辺一記さんへのインタビュー)
―― 瀧口雅仁『釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編』連載一覧