修行か、修業か
「噺家渡世の余生な噺」 第15回
- 落語
柳家 小志ん
2026/07/14
受け継ぐのは、芸だけではない
問いの始まり
この月例エッセイには、締切日がある。
私の場合は、毎月4日。そこから10日ほど編集期間を経て、14日に世へ出る。14日に公開する理由には、またささやかな意味を込めている。今月の題は、最初から決めていた。「修行か、修業か」。たった一文字違うだけの話である。
ところが締切日の午後になって、落語界が少し騒がしくなった。ある著名人が、本職の落語家から高座名を授かり、「落語家デビュー」と銘打って大劇場へ上がるという。瞬く間にチケットは完売し、SNSには賛否両論があふれた。
「落語家とは何か」
「前座もしていないのに落語家なのか」
「客を呼べるなら、それも実力ではないか」
もっともらしい意見が飛び交う。すると当の本人も応じた。
「本職の落語家が客を呼べないのは、努力不足だ」
私は、その騒ぎを眺めながら、ふと一冊の本作りのことを思い出した。
一字に宿る想い
以前、我が一門で『柳家さん喬一門本』という本を出版する機会をいただいた。
師匠を含め、一門それぞれの入門秘話を綴った本である。私は企画から番頭役まで務めさせていただいた。皆から原稿を集め、一通り目を通し、編集者へ渡した。しばらくして編集者から一本の電話が入った。
「確認したいことがあります」
何か大きな誤字でもあったかと思えば、そうではない。
「『しゅぎょう』の字が統一されていません」
見返してみると、確かにそうだった。ある者は「修行」。ある者は「修業」。私は何の疑いもなく「修行」だと思い込み、「修業」という文字を見落としていたのである。
師匠・柳家さん喬に相談すると、「修行で統一しよう」。そう静かに仰った。そのひと言に私は妙に安堵したことを覚えている。たった一文字。しかし、その一字の違いに人の落語観まで映っているような気がした。
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