にらみ返し、 大工調べ、 短命
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第8回
- 落語
林家 はな平
2025/12/06
二十三席目 大工調べ (だいくしらべ) ★★
[ワンポイント]
この噺の主役は大工の棟梁・政五郎(まさごろう)である。人情家で気っ風がよく、筋の通らぬことが大嫌い。店賃をめぐる小さな揉めごとが、次第に大ごととなり、ついには奉行所まで持ち込まれる。江戸っ子の啖呵(たんか)が聴きどころだ。
◆【あらすじ】
棟梁の政五郎が大工の与太郎の家を訪れると、店賃(たなちん:家賃)を滞納したせいで、大家に道具箱を持っていかれたと言う。滞納は「一両二分八百」で、与太郎は年老いた母を養っていて、仕事ができないと困ってしまう。
そこで政五郎が「一両二分八百」のうち、手持ちの「一両二分」だけ持たせる。大家に詫びをして道具箱を返してもらいに行くが、「八百足りない」と追い返される。仕方なく政五郎も一緒に大家のところへ行く。
棟梁は、与太郎の件の詫びを言い、店賃も後で納めるからと話すが、話はもつれて大家は取り付く島もない。あまりの大家の因業(いんごう)ぶりに、頭に血が上った棟梁が尻を捲って大胡座(おおあぐら)を引っ掻いて、大家に対して啖呵(たんか:歯切れのいい言葉で、威勢よくまくしたてること)を切る。大家がこの長屋に流れ着いたところからの所業を断罪すると、そのままお奉行さまへ訴える。
奉行は「大家に店賃の残りを払え」と与太郎に告げ、棟梁は残りの八百を払う。やはり店賃を払わないほうが悪いのだ。これでお白洲(おしらす:町奉行所などでの裁判)は終わるかと思われたが、奉行は大家に向けて問い始める。
「質株(しちかぶ:質屋の営業権)はあるか?」
質株のない大家は平身低頭する。質株を所持しないで道具箱を留め置いたその罰金として、20日分の手間賃300匁(もんめ:1匁は3.75g。300匁は1.125㎏)、金に換算して5両の支払いを命じる。
こうしてお白洲は政五郎たちが大逆転。一件落着、皆が帰ろうとするところ、奉行が政五郎を呼び止める……
◆【オチ】
奉行 「一両二分と八百の公事(くじ:民事訴訟)に金五両とはちと儲かったようであるな」
政五郎 「恐れ入ります」
奉行 「さすがは、大工は棟梁(だいくはとうりゅう)」
政五郎 「へえ、調べをごろうじろ(しらべをごろうじろ)」
◆【解説】
「細工は流々(りゅうりゅう)、仕上げをご覧じろ」→「大工は棟梁、調べをごろうじろ」
こういう諺(ことわざ)とか和歌のようなものをサゲに引っ掛けているものは、それ自体がわからない場合が多く、説明も必要になるので★★(二ツ星)とした。昔の職人などがよく使った言葉で、「仕事の仕方はそれぞれで流儀があるが、途中であれこれ言わずに出来上がりで判断してくれ」というような意味になる。棟梁は「とうりょう」とは言わず、江戸っ子らしく「とうりゅう」と言わないと、流々と引っかからない。
ただ、筆者は特に枕で説明することはない。棟梁が奉行に訴える前に与太郎に向かって「細工は流々、仕上げを御覧じろ。付いてこい!」とだけ言わせているだけである。サゲはわからなくてもこの際、良い。あのサゲは何だったのだろう?と、落語会が終わって打ち上げなんかでお客様同士で教え合ったりして貰えば、それが肴になっていて嬉しい。
何を隠そう、私が学生時代そうだったのだ。落研の先輩と寄席に行った帰りにお酒を呑みながら、そんな話をしたことを思い出す。落語のサゲは少しわからないくらいでも、余白を楽しむことができる芸なのである。
この噺は、サゲまでやることはほとんどない。棟梁が大家に向かって啖呵を切るところでお終(しま)いになることが多い。10回聴けば、サゲまで行くのは1回くらいだろう。こういう長い言い立て(いいたて:決まった長いセリフ)がある噺は、若いうちに覚えたほうが良いと言われる。若いうちに覚えたものは忘れないからだ。
筆者も二ツ目になって程なく覚えたので、この啖呵の言い立てもなかなか忘れない。真打になった後に、10年ぶりくらいにこの噺をやったが、啖呵はすぐに思い出せた。以前は“立板に水のごとく”早口で言っていたが、真打になったので丁寧にやるようになった。啖呵も年齢とともに変わるのである。
八十歳になっても威勢よく啖呵を切りたい。
いま読まれています!
「テーマをもらえば考えます」 第9回
頑張れ!!るるめちゃん!!
~5月11日は、ご当地キャラの日。東久留米の“るるめちゃん”を描いてみよう
三遊亭 天どん
2026/04/30
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第34回
上方講談の伝統を未来へ繋ぐ、継承者にして開拓者 旭堂南華(前編)
~記事掲載“400回”! 魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/04/30
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第35回
上方講談の伝統を未来へ繋ぐ、継承者にして開拓者 旭堂南華(中編①)
~記事掲載“400回”! 魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/01
「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第11回
〈書評〉 暁星 (湊かなえ 著)
~宗教に翻弄された家族の物語
笑福亭 茶光
2026/05/01
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第12回
〈書評〉 待ってました名調子! (国本武春 著)
~浪曲復興の光として、期待を一身に背負った男
杉江 松恋
2026/04/29
「すずめのさえずり」 第十回
船旅のススメ
~豪華客船で落語をするってどういうこと?
古今亭 志ん雀
2026/04/28
シリーズ「思い出の味」 第23回
カレーのような草枕
~自由でゆるくて、どこか芯がある。かつて新宿にあった名店の最後を描く、愛おしい物語
田辺 一記
2026/04/21
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第11回
談志師匠の最後の弟子! 立川談吉 改メ 立川談寛師匠真打昇進披露パーティー
~真打昇進披露パーティー体験レポート②
服部 拓也
2026/04/23
「エッセイ的な何か」 第11回
4月23日は、ビールの日 →廃ビルの妖精に出会った男の苦笑
~結局、何者だったかは今もって不明である…
三笑亭 夢丸
2026/04/25
「かけはしのしゅんのはなし」 第11回
4月4日は、推し推しの日
~自分がそれを好きだと自認した瞬間に、推しが生まれる
春風亭 かけ橋
2026/04/24
「エッセイ的な何か」 第11回
4月23日は、ビールの日 →廃ビルの妖精に出会った男の苦笑
~結局、何者だったかは今もって不明である…
三笑亭 夢丸
2026/04/25
「テーマをもらえば考えます」 第9回
頑張れ!!るるめちゃん!!
~5月11日は、ご当地キャラの日。東久留米の“るるめちゃん”を描いてみよう
三遊亭 天どん
2026/04/30
「マクラになるかも知れない話」 第九回
愛のおはなみ
~まだ咲いている八重桜で、花見はいかがですか?
三遊亭 萬都
2026/04/27
「すずめのさえずり」 第十回
船旅のススメ
~豪華客船で落語をするってどういうこと?
古今亭 志ん雀
2026/04/28
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第34回
上方講談の伝統を未来へ繋ぐ、継承者にして開拓者 旭堂南華(前編)
~記事掲載“400回”! 魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/04/30
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第12回
〈書評〉 待ってました名調子! (国本武春 著)
~浪曲復興の光として、期待を一身に背負った男
杉江 松恋
2026/04/29
「かけはしのしゅんのはなし」 第11回
4月4日は、推し推しの日
~自分がそれを好きだと自認した瞬間に、推しが生まれる
春風亭 かけ橋
2026/04/24
シリーズ「思い出の味」 第23回
カレーのような草枕
~自由でゆるくて、どこか芯がある。かつて新宿にあった名店の最後を描く、愛おしい物語
田辺 一記
2026/04/21
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第35回
上方講談の伝統を未来へ繋ぐ、継承者にして開拓者 旭堂南華(中編①)
~記事掲載“400回”! 魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/01
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第11回
談志師匠の最後の弟子! 立川談吉 改メ 立川談寛師匠真打昇進披露パーティー
~真打昇進披露パーティー体験レポート②
服部 拓也
2026/04/23
シリーズ「思い出の味」 第23回
カレーのような草枕
~自由でゆるくて、どこか芯がある。かつて新宿にあった名店の最後を描く、愛おしい物語
田辺 一記
2026/04/21
「令和らくご改造計画」
第九話 「地獄のモーニングコール」
~落語家は寝すぎ? 働かなすぎ? 前座が仕掛ける“狂気の作戦”とは!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/04/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第12回
お転婆が過ぎると命を落とすこともある
~転んでも前に進む浪曲師の軽やかで楽しい芸人日記!
東家 千春
2026/04/03
「くだらな観音菩薩」 第12回
日光菩薩と月光菩薩
~怒りと笑いを行き来しながら、菩薩様のような優しさに辿り着くエッセイ
林家 きく麿
2026/04/16
「座布団の片隅から」 第12回
地獄
~春風亭㐂いち兄さん、柳家小はだ兄さん、三遊亭歌彦さんと僕でスキーに行ってきたのだが…
三遊亭 好二郎
2026/04/07
月刊「シン・道楽亭コラム」 第12回
一粒の麦 ~世界に広がれ、落語の輪 in 名古屋!
~名古屋の演芸文化を支える多彩な人たちの静かな情熱とリアルな声を追ったコラム
シン・道楽亭
2026/04/10
シリーズ「思い出の味」 第22回
亡き父の味と、鰻に導かれる名人の味
~人生と落語と鰻の不思議なご縁
三遊亭 あら馬
2026/04/20
「講談最前線」 第16回
2026年4月の最前線 【前編】 (講談協会が一般社団法人として始動へ)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/04/11
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第11回
談志師匠の最後の弟子! 立川談吉 改メ 立川談寛師匠真打昇進披露パーティー
~真打昇進披露パーティー体験レポート②
服部 拓也
2026/04/23
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
シリーズ「思い出の味」 第19回
雪のココア
~内弟子時代に憧れた甘い味
柳家 わさび
2026/01/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
「令和らくご改造計画」
第五話 「ヨセジャック事件」
~落語家にとってのマクラとは何か?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/12/12
編集部のオススメ
「浪曲案内 連続読み」 第10回
新釈浪曲忠臣蔵 ~202X年赤穂の旅
~忠臣蔵は難しい? そんな先入観を覆す浪曲コラム
東家 一太郎
2026/03/24
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第11回
〈書評〉 サライ 2026年4月号 (大特集:落語 講談 浪曲 サライの「演芸」 令和の名人)
~人間国宝の鼎談から若手の最前線まで網羅した豪華特集。読むほどに、もっと聴きたくなる!
杉江 松恋
2026/03/19
「噺家渡世の余生な噺」 第11回
手紙 ~拝啓、四十八の君へ~
~来てくださった人の顔を忘れるな。 自分のために頭を下げてくださった人の姿を忘れるな
柳家 小志ん
2026/03/14
「令和らくご改造計画」
第八話 「酔っ払いにSNSを」
~芸人のSNSは、なぜ自由すぎるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/03/12
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第27回
古今東西を自在に読む講釈師 松林伯知(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第11回
シン・道楽亭Webサイトリニューアル! ほぼほぼAIで作ってみた話
~どんな思いで運営しているのか、どんな場所として受け入れられたいのかをお伝えしたい
シン・道楽亭
2026/03/10
月刊「浪曲つれづれ」 第11回
2026年3月のつれづれ(玉川太福の受賞、玉川奈々福の徹底天保水滸伝、『深夜食堂』&『陰陽師』の浪曲化)
~スターの活躍と新しい挑戦が交差する、いまの浪曲界をご紹介
杉江 松恋
2026/03/09
「二藍の文箱」 第10回
かたばみ日記 ~初主任の十日間
~高座と人生が交差する、濃密で温かい日々の舞台裏
三遊亭 司
2026/03/02
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25