NEW

2026年6月の最前線 【後編】 (聴講記:名古屋・大須演芸場定席 / 講談『太閤記』小考③)

「講談最前線」 第21回

 左燕の講談への構えは前出のインタビューをご参照願いたいが、「顔はサエないけれど、話の方はサエるように……」という自身の紹介をし、個人にまつわる大阪場所に関するマクラから、小野川に田舎者と馬鹿にされ、谷風の門下に移る雷電の姿を描いた一席を、上方風のクスグリを交えながら読んだ。

 確かな形で正面を切りながら、口跡鮮やかに、かつテンポ良い運びなので、登場人物が出世していく様ばかりでなく、土俵上の取り組みにもグイグイと引き込まれる、この日の興行の幕開きに勢いを付けた一席であった。

 後半に上がった左南陵は『伊達政宗の堪忍袋』。「弟子の方が拍手が多い……」なんて、やきもち風のマクラには弟子を思う気持ちが見え隠れもする中、「名古屋には今、講釈師が3人いる。あと2、3人増えればいい」というマクラから、秀吉の期待を一心に受けた伊達政宗の活躍ぶりが面白くないと、大久保彦左衛門から命じられて、兼松又四郎は政宗を殴るが、それに耐えた小柄な政宗が大きな赤鬼に見えたというストーリー。

 話の展開からは、名古屋で、そして大須で長く地道に活動をしてきた講釈師の気概が強く感じられたとともに、今後の名古屋での講談界の隆盛を願っているようにも思えた。決して派手さはないが、矍鑠とした姿で、時に笑いを差し挟みながら、アンコで聴かせる『曽我物語』などは、東京での修業時代に修羅場で鍛え上げた腕を感じさせる高座であり、それこそもっと色々な演目を聴かせてもらいたい。

 そして中入り前には、3年ぶりの大須出演になるという田辺鶴遊が東京から出演。市内を巡り歩いていたら、織田信秀と信長の二代に仕えた戦国武将の平手政秀にまつわる公園を見つけ、その近くに「蜀山人珈琲」なるものを飲ませる店があったこと等々から、お得意の『蜀山人』を。

 鶴遊の高座はとにかく明るく楽しく、聴き手をそらさないのが信条。このあたりは師匠である田辺一鶴譲りであり、講談をいい意味でエンターテインメントとして聴かせてみせる。本題にしても、蜀山人が詠んだ狂歌を並べるばかりでなく、特に今回は鶴遊の本籍地でもある名古屋や西の物語を逸話とともに紹介し、最後に「しりとり歌」や「江戸文字鎖」を披露して、江戸の言葉遊びの楽しさを披露。一席で二倍楽しい高座は名古屋でも全開であった。

 ここに名古屋在住の女性講釈師の旭堂鱗林が入れば、まさに「名古屋講談祭」とも言えそうな興行になろうが、それはまたの機会に期待。

 他、文五郎の上方風の短めの『青菜』。東京から来たと応えたら、それを散々いじられた(笑)泉薬師寺の笑いたっぷりの漫才。洒落ではないが、タクマの巧みなマジックも印象に残った。

 名古屋には大須演芸場がある。そして番組が良い。もっと色々な人に名古屋という土地ならではの演芸を楽しんでもらいたい。そのことはずっと願っていることでもある。