2026年6月の最前線 【後編】 (聴講記:名古屋・大須演芸場定席 / 講談『太閤記』小考③)
「講談最前線」 第22回
- 講談
瀧口 雅仁
2026/06/16
講談『太閤記』小考③
これまで見てきたように、いわゆる『太閤記』に描かれる秀吉にまつわる物語は、多かれ少なかれフィクションが含まれていることは、改めて指摘するまでもないだろう。
まず講釈師が、秀吉の誕生を元日(元旦とした方がふさわしいか)として、1年365日かけて、その人生を読み進め、12月30日(31日)に旅立たせることからしてもそうである。
秀吉の誕生は天文6年(1537)2月6日で、亡くなった日は慶長3年(1598)8月18日というのが定説である。そして、母親の胎内に日輪が差して秀吉を宿し、元日に生まれるとしたのは、研究者が指摘するように、中国の皇帝等に見られる「日輪受胎説」も影響しているだろうし、それはまた天下統一をしていく際に、自らが天皇家の血筋を得ているという理由付けのためのものであったとも考えられる。
そもそも秀吉の人生史は織田信長に従する18歳の時まで不詳な点が多く、多くの経歴は秀吉の同朋衆により抹消されたり、修正(改竄)された可能性も否定できない。
例えば、秀吉が出世のきっかけをつかむことになる、講談で言えば『矢矧橋』での出会いも、蜂須賀小六、今川義元、竹千代(徳川家康)と、誰と出会ったのか説が分かれており、そもそもその時代に架橋されていなかったこと。実際には、浜松(当時の曳馬)までやって来た秀吉は、のちに自分の家臣となる久野城にいた松下加兵衛之綱と出会い、まずはその家臣になったとされる。

だが、その之綱にしても当時は久野城には居城しておらず、更に秀吉と同い年(15歳)であったことから、主従に近い関係があったとは考えにくくもあり、また実際に仕えたのは之綱の父である長則である等々、秀吉が成り上がっていく様は、やはり粉飾や歪曲された不確かな事項が少なくないと言える。加えて、秀吉の力すらも働かない物語の創作があったことも忘れてはならないだろう。
その一部は前回も記した、江戸という時代の中で、施政者の顔色を伺いながら史実をまとめ直す作業であったり、出版文化の中で確立されていった戯作などの読み物や、エンターテインメント的な話の楽しさを引き出すために盛られた、娯楽として人気の高かった歌舞伎などからの影響を強く受けた話の嘘といったものも含まれる。
では、講談における『太閤記』の物語の流れはいかなるものか。それは次回に譲ることにする。(この項、続く)
(以上、敬称略)
(毎月13日頃、配信予定)
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