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別荘

「座布団の片隅から」 第16回

 その日は朝から散歩に出かけたのだが、軽井沢の自然が素晴らしい!

 緑豊かな森林と、高原の風が吹いてきて、とても気持ちがよい。関東にいながら、僕の実家の大分県九重町に戻ってきたような安心感。東京のコンクリートジャングルに染まってしまった僕にとって、初めての軽井沢は別世界であった。

 森の中を歩いていると、キノコがいたる所に生えていた。たくさん種類があったので、写真をバシバシ撮ったのだが、東京に帰って調べたら全部毒キノコだった(笑)。

 お昼は万座温泉に行って、温泉に浸かってお酒を抜く。硫黄の匂いが立ち込める万座温泉の香りは、どこか大分県別府市を彷彿とさせる。しかし、軽井沢の沢の近くや、万座温泉の至る所に同じ文言の看板が設置されていた。

 「滑らないようにご注意ください。」

 1日にあまりに同じ文字の看板を見過ぎて、サブリミナル的に不安になる。落語家の精神衛生上、よくないぞ!!

 夕方、別荘に戻って、道楽師匠と僕で落語会。気心の知れたお客様の前でのびのび落語をやらせていただいたのだが、僕が高座に上がろうとした時に事件が起きた。

 別荘は軽井沢の森の中にあるので、とにかく虫がたくさんいる。窓を開けた隙に、いつの間にか蛾が別荘の中に入ってきていたのだろう。出囃子が流れて僕が高座に上がろうとしたら、僕より先に蛾が出囃子に乗って高座へビューンと向かっていった!その挙げ句、蛾は座布団にちゃんと座った(笑)。

 僕の出囃子なのに、お前が使うなよ!! 噺家になって10年経つが、こんなことは初めてである。そして、その騒ぎを見て道楽師匠が言った。

 「アイツは芸のわかる蛾だ!」

 いや、蛾は蛾ですよ、師匠!