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第十二話 「荒れるチラシ」
「令和らくご改造計画」
- 落語
#7
「……確かに、慣れている人じゃないと、なんて送ればいいのか迷うかもね。飲食店とかも電話予約はわかるけど、メール予約ってしないし」
「つまりですね、何を送ればいいのかわからないのが、問題なわけです」
そう言って、急平くんはノートパソコンを開いた。画面には、某落語会のチラシ画像。その中に、こんな文字が表示されている。
予約は、kofune.daisuki@gmail.comへ
「本当は『氏名』『人数』『公演名』を送ってほしいでしょうが、アドレスだけ書けばそこまでみんながわかると思っている。乱暴ですね」
「まあ……そうかもね」
「それなら、分からせばいいのです。何を書いたほうがいいのかを。私に任せてください」
「いける? 時間ないのに」
「いけます」
急平くんは、胸を張った。
「私の捨てアドを100個使います」
「おーこわ。なんでそんなにあるの」
「時間がないんです! 質問はナシです」
「あ、はい。ごめんなさい」
「その100個のアドレスを、落語会に詳しくない友人100人に使わせて、予約メールを送りまくるんですよ」
「送りまくるって……だめだよ、行きもしないのに」
「行かせますよ! 予約ができたならば」
「できるでしょ」
「そうでしょうか?」
急平くんは、画面を指差した。
「しかし、この書き方「予約は、kofune.daisuki@gmail.comへ」は本当に不親切ですね。では、いますぐ予約メールを送らせます。ちなみに、送られたメールは私の方でも確認できます」
カタカタ、と彼が何かを打ち込む。すると、画面の受信ボックスにメールが流れ込み始めた。
「……さあさあ、見てください! 友人たちが送ったメールが、送信ボックスに溜まっていきますよ!」
#8
1通目。
件名:予約
本文:予約をお願いします。
「え、なにこれ? これじゃ、当日来ても誰かわからないよね」
「それも仕方ないでしょう。乱暴な案内には、乱暴なお客ですよ。実際に、こんなメールが送られることはあるんです。自分の常識がみんなの常識だと思わないことです」
「……なるほど」
「まだまだありますよ?」
次々にメールが届く。
件名:予約
本文:予約
続いて
件名:予約
本文:なし
そして
件名:なし
本文:なし
「空メールじゃないか!」
「メールを送れば予約になるのかと思う人だっているでしょう。それに、空メールを送れば、予約URLが送られてくると思う人がいるかもしれない」
「……た、確かに後者は、わからないでもない」
さらに画面には、新しいメールが並んでいく。
件名:予約
本文:できていますか?
件名:落語
本文:初めてです
件名:なし
本文:楽しみです
「もう、もう見てられない……これ、全てにkofune.daisukiさんが返信して、予約方法を一から説明するってこと……?」
「そういうことです。それならば、次からは、『初めからわかりやすく書こう』と、思えるでしょうね」
「こ、ここまでしなくても」
「必要性ってね、言われるだけじゃピンと来ないんです。肌で感じないと。なんでもね」
そう言って、急平くんはこちらを見た。
「ほら、兄さんもね」
「……えっ、僕、何ができてないの!? 教えて!!!」
「質問は、ナシですから」
「そんなあ……」
その時、またメールが一通届いた。思わず画面を覗き込む。
件名:助けて
本文:このメールを見ている方へ。私たちは、早し家急平に逆らうことができません。常に監視され…
バタン!!!
急平くんは、急に開いていたノートパソコンを閉じた。
「な、なにを……」
「はい! 時間です」
「最近の前座さんは、どいつもこいつもおかしいと思っていたけれど、君はいったい何を……」
すると、急平くんの目玉が、突然真っ黒になった。
「質問はぁ!?!?!? 質問はぁ!?!?!? あっひゃっひゃっひゃ!!!!! ひゃっひゃっ!!!!! んなぁぁぁあし!!!」
目玉を真っ黒にして、腹を抱えて笑っている。
「……んんなぁぁぁぁぁぁぁぁあし!!!!!!」
やっぱりこいつもだ。
なんなんだこいつらは。
ひとしきり笑った後、急平くんは静かに言った。
「質問は、ナシですよ」
やはり最近、楽屋の様子がおかしい。
― 続く―

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