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午後の逡巡

「二藍の文箱」 第12回

午後の逡巡

その街に息づいた食堂で、ひとり手酌もまた愉し(画:ひびのさなこ)

三遊亭 司

執筆者

三遊亭 司

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 ポテトサラダだろうか。

 その横には、やはり食べかけの筍煮の小鉢。

 よく聞き取れなかったのは鮪納豆で、一緒に頼んだのは鯖の塩焼き。よく焼きで、と付け加えた。

 ねぇさんの厨房にむけた「……よく焼きで」の声が聞こえる。ちゃんと注文が通ったようだ。

 さて、なにを頼むか。

 ポテトサラダも筍煮も、鯖の塩焼きも鮪納豆も向かいのスーツの男性のもの。

 駅近くの食堂。ひとり、と人指し指をあげると、六人がけのテーブルの端っこを指定された。見上げると、テレビがあって、その下に白菜漬などの短冊が下がる。

 さて、なにを頼むか。と、その前に瓶ビールがきて、瓶ビールをつぎながら、相席のふた組に目を走らせる。

 向かいはスーツ姿のお勤め人。上品なカフスボタンをつけているが、三揃のチョッキのボタンをみっつも開けているのは、あまりいいかたちではないが、それもまた小慣れた感じ。

 壁寄りのふたりは会話からして夫婦もので、シメにカツカレー頼みなさいよ、と、しきりに女性が男性に勧めている。そうだ、シメならここは、オムライスもいいんだぞ、と念を送る。

 ああ、カツカレーで思い出した。ここならカレーのルーだけ、カレー皿350円にもひかれる。

 いかにも食堂といった構えのこの店のカレーは、いかにも食堂のカレーといった、黄色いカレーだ。小麦粉とS&Bの赤缶だろうか。赤缶であってほしい。もったりとしていて、カレー皿を頼んでハムフライ、コロッケに展開するのも、悪くない。