午後の逡巡
「二藍の文箱」 第12回
- 落語
三遊亭 司
2026/05/02
かつ煮は、贅沢なひと品である。
チャーシュー麺やカツカレーの贅沢さとは少し違う。チャーシュー麺やカツカレーにおける、チャーシューとカツは、それがなくても完結している。いわばこれらは「余裕の料理」だ。気張って頼むものだ。気張りたい時、頼むものだ。
でも、かつ煮は違う。煮たカツは絶対と言い切ってもいいぐらい卵でとじられる。揚げ物とも卵料理とも違う立ち位置にある、それらを使った料理だ。ややこしい。
腕を組む。目を瞑る。低く唸る。
かつ煮を頼むと、目玉焼きとハムエッグが消え、揚げ物も頼めない。
かつ煮、お前だったのか。いつも主役を張ってくれたのは。
新美南吉調に取り乱す。
かつ煮から離れよう。
そう、かつ煮はただの例え話だったはず。
さて、なにを頼むか。
ビールを二、三杯飲みつつ、何を頼もうか、と。
アタマのどこかが弛緩してくるにつけ、いろんなはなしが入ってくる。だけどそれを素直に聞いているかは、また、別のはなしだ。聞こえてくるはなしを意識的に無音化する。
そうして心の声を聞く、覚悟を決める。
大袈裟な。
いやいや、大袈裟ではない、ひとりで飲む時は、むしろ制約が多い。責任は自分にしかない。
よし。と、心の中で腹を決める。軽く手を上げ、ねぇさんと目を合わす。
お願いします。
なんにしましょう?
その声がけに一瞬だけ迷いが生じるが、それをぐっとおさえこむ。
「……を、お願いします」

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(毎月2日頃、配信予定)
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