NEW

午後の逡巡

「二藍の文箱」 第12回

 かつ煮は、贅沢なひと品である。

 チャーシュー麺やカツカレーの贅沢さとは少し違う。チャーシュー麺やカツカレーにおける、チャーシューとカツは、それがなくても完結している。いわばこれらは「余裕の料理」だ。気張って頼むものだ。気張りたい時、頼むものだ。

 でも、かつ煮は違う。煮たカツは絶対と言い切ってもいいぐらい卵でとじられる。揚げ物とも卵料理とも違う立ち位置にある、それらを使った料理だ。ややこしい。

 腕を組む。目を瞑る。低く唸る。

 かつ煮を頼むと、目玉焼きとハムエッグが消え、揚げ物も頼めない。

 かつ煮、お前だったのか。いつも主役を張ってくれたのは。

 新美南吉調に取り乱す。

 かつ煮から離れよう。

 そう、かつ煮はただの例え話だったはず。

 さて、なにを頼むか。

 ビールを二、三杯飲みつつ、何を頼もうか、と。

 アタマのどこかが弛緩してくるにつけ、いろんなはなしが入ってくる。だけどそれを素直に聞いているかは、また、別のはなしだ。聞こえてくるはなしを意識的に無音化する。

 そうして心の声を聞く、覚悟を決める。

 大袈裟な。

 いやいや、大袈裟ではない、ひとりで飲む時は、むしろ制約が多い。責任は自分にしかない。

 よし。と、心の中で腹を決める。軽く手を上げ、ねぇさんと目を合わす。

 お願いします。

 なんにしましょう?

 その声がけに一瞬だけ迷いが生じるが、それをぐっとおさえこむ。

 「……を、お願いします」

三遊亭司 X

https://x.com/kamata_kid

三遊亭司 note

https://note.com/sunyout54

(毎月2日頃、配信予定)

前回はこちら