苦しみを、人生の片隅へ
「噺家渡世の余生な噺」 第17回
- 落語
柳家 小志ん
2026/09/14
お客様からの祝い花(柳家さん喬・柳家小志ん親子会にて)
いつか触れようと思っていたこと
二〇二六年八月上旬。
高座や旅仕事、いろいろな仕事や締め切りに追われながら、ありがたいことに忙しい日々を過ごしていた。
私は、忙しくしていないと、どうも落ち着かないところがある。仕事が立て込んでいると、妙に元気になる。前回のエッセイで書いた中学校の同窓会も終わったばかりだった。三十数年前の自分を、ほんの少し取り戻したような気分も残っていた。
そんな、いわば調子のいい数日だった。
定例会のお知らせをするため、いつものようにSNSを開いた。
すると、同輩の投稿が「おすすめ」として表示された。内容は、ある人が亡くなったことを受け、その人から生前に受けた仕打ち――「いじめ」について語ったものだった。
投稿には、さまざまな反応があった。
「死者に鞭打つのか」
「家族への二次被害になるのではないか」
「亡くなった人を、そこまで責める必要があるのか」
一方で、
「死んだからといって、したことまで消えるわけではない」という意見もあった。そして、その中に、私が以前から気になっていた言葉があった。
「忘却は、最大の復讐なり」
私は、この言葉を昔聞いたとき、そんな簡単に忘れられるものか、と思った。傷つけられた側は、そう簡単には忘れない。むしろ忘れたいと思うほど、忘れられない。それなのに「忘れればいい」と言われると、忘れられない自分のほうが悪いような気持ちになる。
その日の私は、楽しい同窓会の余韻から、少し現実へ引き戻された。いつかこのエッセイで触れようと思っていたことを、綴るきっかけになったからである。
被害者が忘れなければならないのか
日本だからなのか。それとも、人間というものは、そもそもそういうものなのか。狭い集団の中で起きたことについて、被害を受けた側にまで原因を求めることがある。
学校なら「いじめ」と呼ばれる。社会なら暴行や脅迫、恐喝、窃盗などにあたる行為であっても、学校という場所に入った途端、「いじめられる側にも何かあったのではないか」という言葉まで出てくる。
大人の社会なら、もっとはっきりと問題になることが、子どもの世界では、なぜか少し曖昧になる。「いじめ」と名前を変えてしまえば、問題まで小さくなったように思える。だが、された側にとっては、「いじめ」という名前になっているだけで、受けた痛みまで小さくなるわけではない。
会社でも同じようなことがある。パワハラ。モラハラ。立場を利用した支配。
「会社なんだから仕方がない」
「昔はもっと厳しかった」
そう言われているうちに、傷ついた側が、自分のほうを責めるようになる。
家庭なら、なおさらである。親から受けた仕打ちの話をすると、こう言われる。
「育ててもらった親の悪口を言うものではない」
「もう大人なんだから、いい加減に許してあげろ」
許せない人間のほうが、どこか未熟であるかのように扱われる。だが、許すことと、傷つかなかったことにすることは違う。忘れることと、なかったことにすることも違う。
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