NEW

夏川を 越す相方の 手を引いて

「朝橘目線」 第15回

 6月のある日のこと。

 仕事終わりの自転車移動中、急にサドルの座り心地が悪くなった。ギィギィという異音がする。クッション性が喪失し、尻が痛い。

 停車してよく見ると、サドルを支える二本の鉄骨のうち、一本がボッキリ折れていた。「引越しの夢」という落語の吊戸棚みたいなもんで、一本折れた状態で乗れば、負荷が集中するもう一本はひとたまりもない。

 サドル泥棒には好都合だろうが、乗り物としては致命的だ。ペダルの寿命も考えると、サドルを交換しても無駄にしてしまうだろう。

 お別れの時が来た、いやに冷静にそう思えた。その二日前にオイルを差し、タイヤに空気も入れた。ご機嫌に走り出していたのに。

 破損のひと月前。落語会の常連様から、買ったは良いが年齢的に全然乗っていない自転車があるからもらってくれないか、と言われていた。

 その時は、相方の未来を知らないので、丁重に断った。改めてそのお客様に連絡したら、快く譲ってくれた。

 あの時、既に自らの寿命を悟って、後釜まで手配してくれたのか? そんなわけないのは分かる。でもそう思いたくもなるタイミングだ。

 そんな心配までしなくて良いんだよ。