第十四話 「踊る金持ちピエロ」

「令和らくご改造計画」

#3

 ただ、「あぐらをかいている」と言われるということは、世間から何かしらの「余裕がある」と思われているということでもある。

 本当に生活に困窮し、明日の飯にも困り、もがいている人間が、あぐらをかいているとは言われないだろう。つまり世間からすれば、オワコンであるはずの落語を生業にしているのに、なぜか金を持っていそうな落語家がいる。

 その上、若い世代へ寄り添うでもなく、自分たちを楽しませるでもない。言ってしまえば、“踊らない金持ちピエロ”である。ピエロなのだから、こちらを楽しませてほしい。しかし踊らない。それなのに、なぜか金は持っている。

 「あいつらは一体、なんで儲かっているんだ!?」

 そう思われているのならば、確かに、何か言いたくなる気持ちも分からなくはない。日曜夕方から、小難しい大喜利を見せすぎたのかもしれない。若い世代には、IPPONグランプリの方がウケが良いことくらい、僕らだって分かっている。

 要するに、そのへんの感情を、彼らは難しいことは考えずに「なぜか儲かっている」と判断して、最終的に「伝統にあぐらをかいている」という言葉にしているのではないだろうか。もはや、胡散臭いのである。

 踊らない金持ちピエロ。そこに、一つの壁がありそうだ。つまりこれは、落語界として乗り越えたい課題でもある。

#4

 そんなことを考えながら、例によって楽屋の隅で頭を抱えていると、背後から声をかけられた。

 「兄さん」

 振り返ると、前座の流亭こう坊(りゅうてい・こうぼう)くんが立っていた。

 二十歳そこそこの若い前座で、楽屋でも師匠方の目を盗んではスマートフォンを眺めている。“流行”にはやたらと詳しいが、芸の上達よりも先に“流行”を追おうとする節があり、それはそれで心配な男だ。

 「兄さん、分かりました」
 「何が?」
 「なんで落語家が世間から鼻につくのか」

 Z世代特有のはっきりとした物言いに、僕は慌てて周囲を見回す。

 「ちょっとそれ、あんまり師匠方の前で言ったらいけないよ」

 こう坊くんはスマートフォンを懐にしまい、こちらへ向き直った。

 「兄さんの言う通りです。落語家は、世間に自分たちのことを理解してもらえていないんですよ」
 「……ああ、また独り言が漏れてたのか」

 「だったらね、世間が分かることをやればいいんです」
 「……例えば?」

 彼は、当然のように答えた。

 「踊りましょう」 

第十四話 「踊る金持ちピエロ」――