第十四話 「踊る金持ちピエロ」

「令和らくご改造計画」

#9

 「これですよ」

 僕は黙ったまま、動画を見ていた。

 「ついに一人目の成功者です。遠回りしてでも落語を広めたいなら、ここまでやる覚悟がいるんですよ。自分たちの分かるやり方だけで、知らない人に分かってもらおうとしても、難しいでしょう」

 ぐうの音も出なかった。

 確かに、1000万回以上も再生される落語の動画が、どこにあっただろうか。落語以外のことで人気者になり、その人を見たいと思っている大勢の前で、初めて落語を披露する。その結果、今まで落語に触れたことのなかった人たちが、最後まで一席を聴いてくれた。

 これは、僕たちが見たかった景色ではなかったのか。

 「知らない人に届いてほしい」
 「若い世代にも面白さを知ってほしい」

 そう言い続けていたのに、実際に届く方法を目の前へ出されると、僕は何も言えなくなった。ここへ到達するために、我々が落語という文化の中でつないできた「魂のようなもの」を、どこかへ売ってしまったのではないだろうか。

 それが悪魔なのか、世間なのかは分からない。

 伝統にあぐらをかくなと言われ、立ち上がって踊った。その結果、確かに今までとは桁違いの人数が、こちらを向いた。これは喜んでいいことなのだろうか。それとも、その迷い自体が、まだ居心地の良い場所へ戻りたいという僕の甘えなのだろうか。

 落語の神様は、いったい今、どう思っているのだろう。

 「ねえ、こう坊くん」

 そう声をかけようとして、気がついた。

 彼はこちらに背を向け、再びスマートフォンを片手に、親指を動かしている。いつも通り、何かの動画を確認しているのだろうと思い、その画面を後ろから覗き込んだ。

 しかし、画面は真っ暗だった。

 さっきまで見せていた落語の動画も、他の動画も何も映っていない。それでも彼は、何かを目で追うように、じっと画面を見つめている。

 黒い画面に反射して、こう坊くんの顔がちらっと映った。その目は、洞窟のように奥まで真っ暗だった。何の感情も感じられない。ただ、そこに穴が2つあるだけのよう。ぞっとして、僕は声を失った。

 すると彼は、ようやくこちらへ振り返り、

 「ああ、兄さん。すみません。また新しいTikTok動画を確認していまして」

 そう答えると、こう坊くんは再び、何も映っていないスマートフォンへ視線を落とした。

 ……やはり最近、楽屋の様子がおかしい。

― 続く―

三遊亭ごはんつぶ official

https://www.the4ki.com/

三遊亭ごはんつぶ X

https://x.com/3ughn

(毎月12日頃、配信予定)