10/9は、アメリカンドッグの日 →兄さんに呼び出された男の困惑
「エッセイ的な何か」 第5回
- 落語
三笑亭 夢丸
2025/10/21
無理無理!
また、野球の好きな兄さんで、同じパ・リーグファンだったこともあり、しょっちゅう球場に足を運んでいた。
あれは神宮球場。オリックスとヤクルトの交流戦を観に行った時。この日も相変わらず、アメリカンドッグを購入した兄さん。いざ食べようと意気込んだその時。本当に突然である。急に物凄い雨が降ってきた。
矢も盾もたまらず、屋内に逃げ込む我々。雨足は暫く弱まらず、天を仰いでいたのだが、その内に兄さんが「あっ!!」と大声を出す。
「どうしました?」
「アメリカンドッグ、置いてきちゃった……」
二十分ほど経ち、雨は嘘のように上がった。そして雨水を含み、哀れ五倍ほどに膨れ上がったアメリカンドッグの土左衛門を、兄さんはただ恨めしそうに見つめるのみであった。
「……絞ったら食えるかな……」
無理無理! 食おうとしてるよ、この人! “アメリカンドッグを絞る”初めて聞くフレーズであった。ちなみに、兄さんが応援していたオリックスは負けた。

▼柳家小蝠師匠のX(2017年3月19日付)
また、呼び出されるのは自宅だけではなく、寄席にも及んだ。つまり、寂しがり屋なのである。前座時分、僕が家にいると、兄さんから電話がかかってきた。
「今、浅草演芸ホールの稽古部屋にいるから来て」
「……なぜ?」
「腰が張っちゃって……ちょっと揉みに来てよ」
「嫌ですよ!」
ルームサービスか! 僕の師匠じゃないんだから。キャリアが違うとは言えども、この時、前座同士。腰を揉みに来いとは随分乱暴な話である。……で、結局暇なので行く方も行く方なのだが。そして、ひと通り揉み終わると、
「よし、稽古つけてやろう!」
くどいようだが当時、前座同士。前座が前座に稽古をつけるなど聞いたことがない。しかも、おもむろに始めたのが、重厚な人情噺『鼠穴』。いやいやいや、『鼠穴』って! そんな噺、教わっても前座じゃできないし!
「いいですよ!」
「何だよ……じゃあこれ教えてやるよ」
と稽古をつけてくれたのが『他行』。四分ぐらいの噺。長編人情噺から随分目減りしたものだ。……でも兄さん、何だかんだ言っても、あれから現在に至るまで物凄く役に立ってます。
『他行』――僕が今まで合計で、一番口演している噺のような気がする。
結果、ありがとう兄さん。腰、揉まされたけど。
いま読まれています!
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