NEW

第十一話 「塀の中」

「令和らくご改造計画」

#4

 「でん吉くん、元気そうだね」

 そう声をかけると、彼は満面の笑みで答えた。

 「元気ですよ」

 むしろ以前より顔色が良い。

 「刑務所生活はどう?」

 そう聞くと、でん吉は嬉しそうに言った。

 「充実しています」
 「充実?」

 僕は思わず聞き返した。

 すると彼は当然のように言った。

 「前座修業中より働く時間も短いですから、稽古する時間がたくさんあるんです」

 僕は少し呆れた。

 「そんなに稽古したって、やる場所がないだろ」

 しかし彼は首を振った。

 「ありますよ」

 そして胸を張る。

 「同室にいる方々や、休み時間に集まってくれる方々に落語を聞いてもらっています」

 さらに得意げに続けた。

 「以前は開口一番で落語をやっても、前座ですから。お客さんからすると二ツ目や真打の前の待ち時間みたいな扱いでしたけれども」
 「まあ、そういう気持ちになる時期が一回はあるよね」
 「でも今は違います」

 彼は身を乗り出した。

 「ここは娯楽の少ない環境ですから、皆さん本当に真剣に聞いてくれるんです」
 「へえ」
 「前座どころか、真打顔負けの大爆笑ですよ」

 そう言って、したり顔を見せる。

 と、その話を聞いていた、でん馬師匠の額に血管が浮いているのが横目に見えた。まあ、さすがに反省していないのだから怒るだろう。

 「馬鹿野郎!!!」

 師匠は突然、怒鳴った。

 僕は身を縮める。しかし続いた言葉は予想外だった。

 「同じ客の前でばかりやってたら、落語が下手になる!!」

 そっちかよ。弟子が弟子なら、師匠も師匠である。

 だが、言われてみれば確かにその通りでもあって、自分の勉強会や独演会ばかりやっていると、芸はどうしても偏ると言われる。

 自分を好きなお客さんの前でばかり高座に上がっていると、一般的な大衆の感覚から離れていく。

 だから落語家は寄席へ出る。学校寄席へ行く。営業に行く。色々な客層の前で揉まれる。それによって芸の幅を広げるのだ。

 そう考えると、娯楽の少ない環境で、自分を楽しみにしてくれる人たちの前でばかり落語をやっているでん吉の芸は、どんどん偏っていくのかもしれない。

 そもそも、囚人ってお客さんなのか。

 しかし、でん吉本人は気にしていないらしい。

 「最近ではですね」

 彼は嬉しそうに続けた。

 「将来、僕が寄席でトリを取る時は、みんなで見に行こうって話になってるんですよ」
 「みんなって……」
 「“ここ”の皆さんですね」

 彼は満面の笑みを浮かべる。

 「ですから僕の昇進披露興行は、元囚人の皆さんで満員ですよ。刑期が長くて、間に合わない方もチラホラいますけど!」

 寄席の治安が心配でならない。

 しかし、でん馬師匠もその部分に関しては何も言わなかった。案外、弟子の集客力として評価しているのかもしれない。

 大丈夫なのか、この師弟は。