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三遊亭小歌という落語家がいた

「二藍の文箱」 第14回

 翌日は、詫びにではなく、辞める挨拶に行く念のいれよう。

 小歌師匠の顔を見た圓歌が、

 「おぉ、小歌。こんな早くにどうした」
 「えぇ、辞めるにあたってご挨拶に」
 「なんだおまえ、辞めるのか?」
 「師匠が辞めちまえって」
 「俺が? 言ったかそんなこと?」
 「昨日言いましたよ」
 「昨日? 俺が? 酒が言わせたんだろ、まぁ、いいや」

 と、さすが圓歌劇団、大師匠のほうが役者が一枚も二枚も上である。

 名前で思い出したが、わたしが真打になる時、襲名目前で“待った”がかかった名跡があった。三遊亭の系統にも列するいい名前であり、先代ご家族に辿りつき、大師匠圓歌、師匠歌司に快諾を得て、襲名する運びとなった矢先に失くなった、幻の襲名話だ。

 その時も真っ先に電話をくださったのが、小歌師匠だった。受信をするやいなや「誰だ!? おまえの名前でガタガタ言ってンのは!!」。

 その言葉を聞いただけで、ああ、もうこのはなしは止しにしよう、一門のなかにたったひとりでも、そう言ってくれる先輩がいらしてくださったことだけで、もう、自分のなかで納まりがついた。

 わたしの真打披露の際、お客様にお渡しする口上書きは、一門の師匠方に一筆ずつ頂戴したが、小歌師匠は、

 「披露口上に華を添えるのは各界著名人のご祝辞が通例の様に思いますが 敢えて大師匠圓歌一門諸師の口上とのこと華やかさより一門の結束を示すという思いやりと侠気 忘れかけていた日本人の心を持つ若き真打 司君のこれからが楽しみです」

 と寄せてくれた。

 本当に侠気があったのは、小歌師匠だ。