「継続は力なり」ではない
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第13回
- 落語
桂 三四郎
2026/09/29
誰やねん?
まあ、今から30年以上前の緩やかな時代なので
お年寄りもいきなり小学生が乱入してきて少しびっくりしただろうけど
にこやかに迎えてくれた。
「よかった……間に合った……」
心から安心した時の朝の深呼吸の清々しさ。
ラジオ体操第一を終え、みんなが帰り支度を始めた時、僕は疑問に思った。
「あれ? ハンコは?」
毎朝見る、ハンコの行列ができていない。
というか、行列ができるほど人もいないんだけど
ハンコをもらわないと、ラジオ体操に行った証明にならない。
ただ老人と無駄な運動をしただけの朝になってしまう。
勇気を持って、そのラジオ体操の幹事的なおじさんにカードを差し出し聞いてみた。
「あ、あの……ハンコ……」
「え? ハンコ?」
「うん、ハンコください」
「ハンコ?」
「うん、ハンコ。スタンプカードに……ハンコ……」
「う、うぅ、ハンコなあ。ちょっと待ってや。なあ誰かハンコ持ってないか!? この子にハンコ押したって!!」
親切なおじいさんは周りに呼びかけてくれた。
勇気を出してよかった。
「ハンコ? ハンコなあ~」
「ハンコはないわ~」
「ハンコってなあ」
諦めかけたその時、一人のおじいさんがこう言った。
「わしのうち目の前やから、取ってきたるわ~」
なんて親切なおじいさんなんだ。
やっぱり勇気出してよかった!!
おじいさんはすぐに戻ってきてくれて僕のスタンプカードを見て
「おー、ここに押したらええんやな? よいしょっと、ご苦労さん」
と返されたカードを見てびっくりした。
(石井)
僕のスタンプカードに並んだ鬼のスタンプの隣に赤いシャチハタで
(石井)
僕が寝ぼけているのか、何度も目を擦り確認しても
(石井)
僕のラジオ体操の連続参加記録は更新されたけど
(石井)
押されたハンコは鬼ではなく、紛れもなく(石井)なのである。
「いやぁ~よかったなあ、僕~!!」
ええことあらへん……。
(石井)のハンコなんて欲しないねん。。。
てか、誰やねん、(石井)……。
だが、わざわざ家まで取りに帰ってくれた(石井)に向かってそんなこと言ってはいけない。
小学生ながら、それくらいの空気は読めた。
悲しき石井
半泣きになりながら、家に帰ると
いつもより帰りが遅かった僕に母親が言った。
「あんた、いつもより遅いやないの!! ラジオ体操行かんと、どっかで遊んできたんやろ!!」
「いや、行ったし……」
「ほんまかいな!? ほな、ラジオ体操のカード見せてみ!!」
「うん……」
渋々、スタンプカードを見せると
押された(石井)のハンコを見て母親は爆笑した。
「あんた!!! なんで今日は(石井)やのん!!! このスタンプ鬼、鬼、鬼、鬼、(石井)って~!!」
なんてデリカシーのない母親なのだろう。
子供がこんなに(石井)で傷ついているというのに……。
「お父さん!! 見たって!! この子、今日(石井)やで!!」
「は? 何これ? なんでお前(石井)やねん!! どうすんねん!! 鬼の次(石井)やぞ!!」
どうすんねんもこうすんねんもないやろ。
泣いても笑っても、今日が(石井)であることは変わらない。
半泣きになる僕を見て、さすがに父親も笑い物にしては可哀想かと思ったのか
「まあええやん。明日、鬼のハンコ押してもらったら鬼に挟まれてオセロみたいに(石井)も鬼にひっくり返るって~」
と言い放ち、ずっと(石井)で爆笑していた。
正直、もう次の日からラジオ体操に行くのはやめようかと思った。
なんせ昨日の(石井)のせいでめちゃくちゃテンションが下がっているのだ。
それでも朝はやってくる。
ラジオ体操はやってくる。
母親に叩き起こされ、仕方なく幼稚園に向かう。
近所の友達がみんなでまたスタンプカードを見せ合う時間がやってくる。
毎日顔を合わせているのだから見せ合う必要なんかないのに。。。
なんとか見せずに、その場をスルーする。
もし僕が(石井)であることがバレたら、何を言われるかわからない。
いや、別に僕は(石井)ではないのだけど……。
いま読まれています!
「くだらな観音菩薩」 第18回
羅怙羅尊者
~浪曲女子との共演から生まれた新たな夢と、仏様が教えてくれる心の優しさ。笑いの向こうに、芸人の胸の内が見えるコラム
林家 きく麿
2026/10/16
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第48回
好奇心が切り開く、新しい講談の世界 一龍斎貞奈(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/10/15
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第49回
好奇心が切り開く、新しい講談の世界 一龍斎貞奈(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/10/16
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第18回
友達ほしい
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/10/03
月刊「シン・道楽亭コラム」 第18回
ありがとうございました、龍玉師匠 ~112席の宝物
~もっともっと、あなたの落語を聴きたかった
シン・道楽亭
2026/10/10
「お恐れながら申し上げます」 第14回
噺家の衣替えの話
~いちばん大変なのは、半衿の縫い付け?
入船亭 扇太
2026/10/11
月刊「シン・道楽亭コラム」 第17回
演芸ファンがほしかったスマホアプリを作りました ――「ご贔屓手帖」ができるまで
~ファンの小さな困りごとから生まれたアプリの物語
シン・道楽亭
2026/09/09
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第4回
あふれる情熱と笑顔 神田鯉花(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/06/27
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第17回
〈書評〉 役者の落語はお父さんのカレー (小宮孝泰 著)
~「演じる」と「語る」の間に、落語の魅力がある。演劇と落語を比べて見つけた、笑いの秘密
杉江 松恋
2026/09/22
シリーズ「思い出の味」 第23回
カレーのような草枕
~自由でゆるくて、どこか芯がある。かつて新宿にあった名店の最後を描く、愛おしい物語
田辺 一記
2026/04/21
月刊「シン・道楽亭コラム」 第18回
ありがとうございました、龍玉師匠 ~112席の宝物
~もっともっと、あなたの落語を聴きたかった
シン・道楽亭
2026/10/10
「くだらな観音菩薩」 第18回
羅怙羅尊者
~浪曲女子との共演から生まれた新たな夢と、仏様が教えてくれる心の優しさ。笑いの向こうに、芸人の胸の内が見えるコラム
林家 きく麿
2026/10/16
「お恐れながら申し上げます」 第14回
噺家の衣替えの話
~いちばん大変なのは、半衿の縫い付け?
入船亭 扇太
2026/10/11
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第48回
好奇心が切り開く、新しい講談の世界 一龍斎貞奈(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/10/15
「噺家渡世の余生な噺」 第18回
人に負けないもの
~情熱は、巡ってくる
柳家 小志ん
2026/10/14
「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第16回
〈書評〉 殺し屋の営業術 (野宮有 著)
~凄腕営業マンが命がけで売上2億円を目指す、異色の犯罪ミステリー小説!
笑福亭 茶光
2026/10/12
「ずいひつかつどお」 第13回
なつさんさようなら
~夏が終わって良かった。夏なんていいところが一つもないのだから
立川 談寛
2026/10/09
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった蜃気楼龍玉師匠への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第49回
好奇心が切り開く、新しい講談の世界 一龍斎貞奈(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/10/16
「古今亭佑輔とメタバースの世界」 第14回
恩返し
~師匠から頂いた「佑輔」という名前は、今も進む道を照らしてくれる
古今亭 佑輔
2026/10/05
月刊「シン・道楽亭コラム」 第18回
ありがとうございました、龍玉師匠 ~112席の宝物
~もっともっと、あなたの落語を聴きたかった
シン・道楽亭
2026/10/10
「古今亭佑輔とメタバースの世界」 第14回
恩返し
~師匠から頂いた「佑輔」という名前は、今も進む道を照らしてくれる
古今亭 佑輔
2026/10/05
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第41回
一途に講談を生きる 田辺いちか(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/07/14
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第13回
「継続は力なり」ではない
~僕を待っていた、悲しい結末。“計画倒れ人生”を笑い飛ばす愉快な実話エッセイ!?
桂 三四郎
2026/09/29
「コソメキネマ」 第十七回
玉川祐子師匠
~103歳の玉川祐子師匠、ついに『徹子の部屋』へ!! 映画は『ヤング@ハート』をご紹介。
港家 小そめ
2026/09/19
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第18回
友達ほしい
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/10/03
「マクラになるかも知れない話」 第十四回
君たちはどう痩せるか
~日常の些細なモヤモヤを、落語みたいに笑い飛ばしてくれる爽快エッセイ!?
三遊亭 萬都
2026/09/25
「テーマをもらえば考えます」 第14回
師匠のコーヒーは
~笑いも苦みもたっぷり、師弟をつなぐコーヒーの思い出を綴ったエッセイ
三遊亭 天どん
2026/09/30
「くだらな観音菩薩」 第18回
羅怙羅尊者
~浪曲女子との共演から生まれた新たな夢と、仏様が教えてくれる心の優しさ。笑いの向こうに、芸人の胸の内が見えるコラム
林家 きく麿
2026/10/16
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第17回
〈書評〉 役者の落語はお父さんのカレー (小宮孝泰 著)
~「演じる」と「語る」の間に、落語の魅力がある。演劇と落語を比べて見つけた、笑いの秘密
杉江 松恋
2026/09/22
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった蜃気楼龍玉師匠への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第11回
オシャレは落語家を変える
~バレたら破門の危険なオシャレ!?
桂 三四郎
2026/06/28
月刊「シン・道楽亭コラム」 第18回
ありがとうございました、龍玉師匠 ~112席の宝物
~もっともっと、あなたの落語を聴きたかった
シン・道楽亭
2026/10/10
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第12回
プロレタリアの街
~「絶対にここに戻ってきたらあかんで」そう言われた青年は22年後、落語家として帰ってきた。笑って最後にじんとくる実話エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/08/10
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
編集部のオススメ
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第13回
「継続は力なり」ではない
~僕を待っていた、悲しい結末。“計画倒れ人生”を笑い飛ばす愉快な実話エッセイ!?
桂 三四郎
2026/09/29
「令和らくご改造計画」
第十四話 「踊る金持ちピエロ」
~最近の前座さんたちは、時々おかしい
三遊亭 ごはんつぶ
2026/09/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第17回
演芸ファンがほしかったスマホアプリを作りました ――「ご贔屓手帖」ができるまで
~ファンの小さな困りごとから生まれたアプリの物語
シン・道楽亭
2026/09/09
「座布団の片隅から」 第17回
好楽
~祝・傘寿! タフすぎる三遊亭好楽師匠の宴
三遊亭 好二郎
2026/09/07
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十七回
四段目、 そば清、 愛宕山
~初心者でも楽しめる、オチがもっと面白くなる落語入門
林家 はな平
2026/09/06
「艶やかな不安の光沢」 第4回
N氏の碑から浪江の海まで
~長崎の碧い海から、忘れられない故郷の海へ。喪失と希望のロードムービーのようなエッセイ
林家 彦三
2026/09/04
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第17回
ありがとう失言、待っているよ暴言
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/09/03
「くだらな観音菩薩」 第15回
阿弥陀如来
~同期であり、仲間であり、ライバルであり、親友だった蜃気楼龍玉師匠への想い。そのままの言葉、そのままの心
林家 きく麿
2026/07/16
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第41回
一途に講談を生きる 田辺いちか(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/07/14
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25