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「継続は力なり」ではない

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第13回

誰やねん?

まあ、今から30年以上前の緩やかな時代なので

お年寄りもいきなり小学生が乱入してきて少しびっくりしただろうけど

にこやかに迎えてくれた。

「よかった……間に合った……」

心から安心した時の朝の深呼吸の清々しさ。

ラジオ体操第一を終え、みんなが帰り支度を始めた時、僕は疑問に思った。

「あれ? ハンコは?」

毎朝見る、ハンコの行列ができていない。

というか、行列ができるほど人もいないんだけど

ハンコをもらわないと、ラジオ体操に行った証明にならない。

ただ老人と無駄な運動をしただけの朝になってしまう。

勇気を持って、そのラジオ体操の幹事的なおじさんにカードを差し出し聞いてみた。

「あ、あの……ハンコ……」
「え? ハンコ?」

「うん、ハンコください」
「ハンコ?」

「うん、ハンコ。スタンプカードに……ハンコ……」
「う、うぅ、ハンコなあ。ちょっと待ってや。なあ誰かハンコ持ってないか!? この子にハンコ押したって!!」

親切なおじいさんは周りに呼びかけてくれた。

勇気を出してよかった。

「ハンコ? ハンコなあ~」
「ハンコはないわ~」
「ハンコってなあ」

諦めかけたその時、一人のおじいさんがこう言った。

「わしのうち目の前やから、取ってきたるわ~」

なんて親切なおじいさんなんだ。

やっぱり勇気出してよかった!!

おじいさんはすぐに戻ってきてくれて僕のスタンプカードを見て

「おー、ここに押したらええんやな? よいしょっと、ご苦労さん」

と返されたカードを見てびっくりした。

(石井)

僕のスタンプカードに並んだ鬼のスタンプの隣に赤いシャチハタで

(石井)

僕が寝ぼけているのか、何度も目を擦り確認しても

(石井)

僕のラジオ体操の連続参加記録は更新されたけど

(石井)

押されたハンコは鬼ではなく、紛れもなく(石井)なのである。

「いやぁ~よかったなあ、僕~!!」

ええことあらへん……。

(石井)のハンコなんて欲しないねん。。。

てか、誰やねん、(石井)……。

だが、わざわざ家まで取りに帰ってくれた(石井)に向かってそんなこと言ってはいけない。

小学生ながら、それくらいの空気は読めた。

悲しき石井

半泣きになりながら、家に帰ると

いつもより帰りが遅かった僕に母親が言った。

「あんた、いつもより遅いやないの!! ラジオ体操行かんと、どっかで遊んできたんやろ!!」
「いや、行ったし……」

「ほんまかいな!? ほな、ラジオ体操のカード見せてみ!!」
「うん……」

渋々、スタンプカードを見せると

押された(石井)のハンコを見て母親は爆笑した。

「あんた!!! なんで今日は(石井)やのん!!! このスタンプ鬼、鬼、鬼、鬼、(石井)って~!!」

なんてデリカシーのない母親なのだろう。

子供がこんなに(石井)で傷ついているというのに……。

「お父さん!! 見たって!! この子、今日(石井)やで!!」
「は? 何これ? なんでお前(石井)やねん!! どうすんねん!! 鬼の次(石井)やぞ!!」

どうすんねんもこうすんねんもないやろ。

泣いても笑っても、今日が(石井)であることは変わらない。

半泣きになる僕を見て、さすがに父親も笑い物にしては可哀想かと思ったのか

「まあええやん。明日、鬼のハンコ押してもらったら鬼に挟まれてオセロみたいに(石井)も鬼にひっくり返るって~」

と言い放ち、ずっと(石井)で爆笑していた。

正直、もう次の日からラジオ体操に行くのはやめようかと思った。

なんせ昨日の(石井)のせいでめちゃくちゃテンションが下がっているのだ。

それでも朝はやってくる。

ラジオ体操はやってくる。

母親に叩き起こされ、仕方なく幼稚園に向かう。

近所の友達がみんなでまたスタンプカードを見せ合う時間がやってくる。

毎日顔を合わせているのだから見せ合う必要なんかないのに。。。

なんとか見せずに、その場をスルーする。

もし僕が(石井)であることがバレたら、何を言われるかわからない。

いや、別に僕は(石井)ではないのだけど……。