NEW

2026年10月の最前線 【後編】 (佐渡で講談を想う / 連続物の面白さを味わう)

「講談最前線」 第30回

●緻密と大胆、二人が描く悪の世界

 裏話になるが、台本は宝井琴梅(きんばい)のものと共通であるだけに、台本をそのままなぞるばかりでなく、それぞれが物語の世界をどう描いていくか。そして同じ一門でもない二人が「俥読み」でどんなアプローチで聴かせていくのか。そのあたりのスタンスがまた、物語の出来の行方を左右するかと思ったが、そんな心配やらが杞憂に終わる出来であった。

 特に、琴凌が読んだ「お信殺し」は、歌舞伎では描かれない物語の発端であり、登場人物の背景や立ち位置を明確にしておかないと、この先、何話と続いていく物語の味付けが変わってくるだけに丁寧に。そのあたりは長編連続物の雄である宝井琴凌だけにお手のもので、話を聴き進めていくうちに、“なるほど、今の描写があとで映えてくるんだな”と、サスペンスを楽しむがごとき展開で聞かせてみせた。

 次の銀冶は、第一、第二の悪事を起こした次郎吉(のちの次郎兵衛)が、物語中盤の鍵を握るお紺と出会う場を。銀冶の高座は、地の文での言葉運びやセリフ回しが丁寧なところが魅力でもあり、今回の場では、以前のインタビューでも話していたように、悪人が似合っていた(笑)。しかも悪女の魅力を充分に引き出すように、カラッと犯行に臨むのだ。そうなると、琴凌の緻密な犯行と銀冶のアッケラカンとした犯行の対比がまた、この『新吉原百人斬』を楽しく聴かせる。もちろん、その違いはまた物語の展開に合った描写であるからこそ効果的である。

 中入りを挟んで、再び琴凌。佐野に戻った次郎吉がお直と夫婦になるも、ますます悪事に励む中で息子を授かるが、お直は自ら命を絶つ。ところがそれに反するように、絹商人として栄えていくという、人の運命の皮肉と言おうか、次郎吉改め次郎兵衛のふてぶてしさが光っている。女房お直が命を落としても、これまたアッケラカンとした姿が……と、ここで銀冶描く次郎吉とリンクしてきた!

 そして、今回の結末にあたる銀冶の「お紺殺し」。次郎兵衛が江戸から佐野への帰り道、戸田の船着場までやって来ると、今はその姿も変わり果てたお紺と出会うという、「新吉原百人斬」前半のクライマックス場面である。

 一見、人の良さそうな次郎兵衛であるが、お紺を何とか亡き者にしなければという様子が、例えば、お紺に自分がなぜお紺を見捨てたのかという理由を話して聞かせるところに感じられたり、それを聞いたお紺がいったんは次郎兵衛を許すも、「私はここにいるから、一人で行ってくれ」と、自分の境遇を嘆く姿といった人情の機微。

 そして、次の場面(後半)に繋がっていくための緊張感が、銀冶の押す読みではなく、グッと感情を押さえるような、いわば低い調子で淡々と進めていく語り口により、人間の業の様子を描き分けていた。

 その展開はどうなっていくのか。11月の「新宿講談会 夜席」で楽しめるのが待ち遠しい。