〈書評〉 玉川太福 私浪曲 唸る身辺雑記(玉川太福 著)
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第1回
- 浪曲
- Books
杉江 松恋
2025/05/20
新宿末廣亭での歴史的快挙
これは、実は歴史的価値のある本なのである。
玉川太福『玉川太福 私浪曲 唸る身辺雑記』(竹書房)は、著者が浪曲師としての看板としている「私浪曲」の速記本だ。「私浪曲」は耳慣れない言葉だが、「私小説」の浪曲版だと思っていただければいい。玉川太福が実際に体験したことを節(ふし)付きで唸る。お客さんが笑う。そういうものだ。
念のため説明しておけば、太福は2007年3月に二代目玉川福太郎に入門し、18年余に及ぶキャリアのある浪曲師だ。一般社団法人日本浪曲協会だけではなく、公益社団法人落語芸術協会にも属しており、2025年1月下席(21~30日)の新宿末廣亭で浪曲師としては何十年ぶりとなる、落語主体の寄席で主任を務めるという快挙を成し遂げた。新宿末廣亭では、おそらく初だろう。本書もその主任興行で販売されていた。はりきって本を持ち込みすぎて、観覧に来ていた高田文夫から「30冊くらいにしておけ」と窘められたという。
太福の看板といえば「地べたの二人」である。工務店らしきところに勤めている先輩の斎藤と金井の会話で進んでいく話で、二人が弁当について延々とやりとりをする「おかず交換」などがことに有名だ。本書には「地べたの二人」シリーズは収録されておらず、本当に身辺雑記風の14話が入っている。巻頭の「自転車水滸伝 ~ペダルとサドル~」は、「銭湯激戦区」と共に太福が最初期に作った外題(げだい)である。外題というのは、浪曲におけるネタの呼び方だ。最初に唸る節はそのネタの看板でもあるので、外題付けと呼ばれる。
収録されたもののうち半分は、2018年に太福が〈渋谷らくご〉で定期的に出演した「月刊太福マガジン」で初演されている。芸人のサンキュータツオがキュレーターを務める〈渋谷らくご〉は、幾人もの若手に光を当ててきた。現・伯山の神田松之丞が世間に注目される機会を掴んだのもこの会だ。太福もまた〈渋谷らくご〉の恩恵を受けた一人なのである。
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