オシャレは落語家を変える
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第11回
- 落語
桂 三四郎
2026/06/28
ドヤ顔、絶好調
そのとき、目にとまったのが師匠が持っていた
「ドルチェ&ガッバーナ」の白いジージャンだった。
買ったのか、もらったのか忘れたが
地方には着ていかずに事務所に保管してあったのだ。
「これや!!」
そう思って袖を通すと
なんとあつらえたかのようにピッタリだったのだ!!!!
鏡を見てもめちゃくちゃ似合っている。
心なしかドルガバのモデルのように見えてくる。
師匠のドルガバのGジャンを羽織った僕は、夜の梅田に飛び出した。
Gジャン以外はいつもの僕なのに
なぜか、「できる大人の男」のような自信に満ち溢れている。
全財産が数千円という貧困層の人間とは思えないほど
颯爽と梅田の街を闊歩する。
食べこぼしのシミがついた安物のジーンズですら
ビンテージジーンズに見えるから不思議だ。
「すんません!! 遅くなりました!!」
指定された個室に入ると、女性たちの目が僕に釘付けになった。
そらそうだろう。
小汚い修業中の後輩ザコ落語家がくると聞いてたのに
入ってきたのは真っ白なドルチェ&ガッバーナのGジャンを着こなし
自信に満ち溢れた若者がドルガバのモデルみたいな顔をして入ってきたのだ。
「おいお前、なんかいい服着てるな!?」
ふふふ、やはりわかってしまうか。
隠そうと思っても隠せないもの
それが大人のおしゃれだ。
「いや~。まあ、結構気に入ってるんですよね~」
「なんやねん、若手が着てくるジャケットちゃうぞ? 自分で買ったんか?」
「いや~、買ったんじゃないんすよね~」
「え? ほなもらったんか?」
「いや~、そうじゃないんすよ~」
「なんやねん。どっから持ってきてん?」
全員の注目が集まったところで、僕は自信満々に言い放った
「いや~師匠のジャケット、着てきちゃったんすよね~」
さぁ、どうですか、この破天荒っぷり!
兄さん方、僕はほかの後輩ザコ落語家とはひと味ちゃいまっしゃろ?
どうです?
どうです?
どないです!?
ドヤ顔しながら自信満々のボケをかました。
しかし、先輩方の反応は全然違った。
「え……おま……師匠の……?」
「そうなんすよ~」
「マ、マジで? それ、大丈夫なん? ヤバない?」
そりゃそうだ、僕の師匠は桂文枝(当時は桂三枝)だ。
芸能界の天下人の上、当時は上方落語協会会長。
そんな大御所の修業中の弟子を合コンに誘っただけでもヤバイのに
師匠のジャケットを無断で着ているのである。
もし何かあってこれが発覚したら、自分たちの立場まで危ぶまれる。
ただ周りの女の子の目もあるから
ここでビビっているところを見せてしまうと
器が小さいと思われる。
「お、お、そ、そうか。とりあえず。ほらジャケットかけといたるわ」
食事で汚したりしたら大変だ、できるだけ事故を起こすまいという気遣いだ。
いま読まれています!
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