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オシャレは落語家を変える

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第11回

バレたら破門

しかし、ジャケットを脱いでしまうと、魔法が解けて一気に後輩ザコ落語家に戻ってしまう。

「いや、このままでいいっす」
「お、おう。紙エプロンとかもらおか?」
「いや、大丈夫っす」

先輩の気遣いもまったく意に介さず

白ジャケットを着こなす僕は生ビールを一気に流し込んだ。

「お、お前、まあ修行中やしな。ゆっくり飲みや。あの酔ったらあれやし」
「こんなん余裕っすよ!!」

ドルガバのGジャンを着こなしているだけで周りの人間に一目置かれる。

やはり、おしゃれは自分の内面だけでなく、周りの扱いすら変えてしまうのだ。

しかし、僕もただのアホではない。

合コンで盛り上がりながらも

この白いジャケットに醤油や食べこぼしのシミでもつけようもんなら

大変なことになる。

修行中の分際で、師匠の服を無断で着て合コンに行ったなんてことがバレたら最悪、破門にもなりうる。

合コンを盛り上げながら、顔は笑っていても、内心はドキドキしっぱなしだった。

絶対にいつものような食べこぼしをするわけにはいかない。

でもジャケットを脱ぐわけにはいかないのだ。

せっかくこの場で築いた「先輩に一目置かれる有望な後輩落語家」という確固たる地位をどうしても手放したくない。

いつも以上に気をつけながら箸の先に神経を集中させ、食べ物をゆっくり口に運び、一口食べるごとにおしぼりで口を拭いていた。

すると、隣に座っていた女の子が僕に向かって

「なんかあれですね。やっぱり落語家さんて食事の仕方がとても丁寧なんですね

そう、オシャレはその人の立ち居振る舞いまで変えてしまうのだ。

幸い、ジャケットに一滴の醤油もこぼさず

合コンも大いに盛り上がりその夜を終えた。

二次会に向かう先輩方を見送った僕は

夜の梅田で言いようのない満足感に浸っていた。

今までの人生で一番過酷なミッションをやり終えた僕は

来た時と同じ道をドルガバのGジャンを着て帰る。

心なしか、来た時より梅田の街が小さく思えた。

やはりオシャレは見た目だけではなく、その人の心を成長させるものなのだ。