プロレタリアの街
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第12回
- 落語
桂 三四郎
2026/08/10
人生の終着駅
待てよ、それでも5500円だ。
「あの、2000円足りませんけど……」
「きみ、そんなお金のことばっかり言うてたらあかんで~!! 聞いてないか? うち食事が朝晩と出てるんや。それを天引きして2000円やねん。しかも朝の時に弁当置いているから、昼に持ってってええんやで!! それはうちからのサービスやで!!」
そうだったのか、まさか食事代を引かれていたとは。25年前の1000円の食事代は、なかなかの値段だ。
さぞかし豪華なものが出るのだろうと期待して食堂に向かうと
まっ黄っきになった、いつのかわからないご飯に、漬物、大根の葉っぱが浮いたやたら塩辛い味噌汁
そしてメインのおかずが、“何かわからないもの”の煮付け。
この何かわからないものの形状は、ビーフジャーキーのようなものなんだけど
あまりに硬すぎて噛みきれないのだ。
醤油と砂糖の味はかろうじてわかるのだけど
硬すぎて、本当に食べ物かどうかもわからない。
僕らはそれを「木の皮の釘煮」と呼んでいた。
釘の形はしてないのだけど、神戸のソウルフード「いかなごの釘煮」と味が似てたことでそう呼んでいた。
噛みきれなかったので、結局、飲み込んだことはないのだけど……。
それでもたまにトンカツとか、まともな料理も出ることもある。
ある日、友だちと仕事終わりに「今日、トンカツらしいから食べて行こか」となって
トンカツを食べていると、仕事終わりであろうおじさんが揉めている。
「おい、なんやこのトンカツ!!! トンカツと一緒にハチが揚がってもうてるやないかい!!」
どういう経緯なのかはわからないが、このおじさんのトンカツの衣にハチがくっついて揚がってしまっていたのだ。
すると食堂のおじさんは、悪びれることなくこう答えた。
「あー!! それは当たりやがな!!」
当たり!? なんぼ何でも無理あるやろ!!
いや大阪のおばちゃんとかがよく言うセリフではあるけど。。。
そう言われても、唯一の楽しみである食事にケチをつけられて
納得できるわけがない。
「これのどこが当たりやねん!! ハズレやったらどないなんねん!!」
「あー、ハズレはハエや!!」
ハエ!!! 最悪のハズレやないか……。
寮の食事で最高峰のトンカツですら、この始末だ。
今考えてみても、このF産業は“人生の終着駅”のような場所だった。
働いているおじさんはだいたい50代中頃で
そのほとんどがこのF産業の寮に住んでいるのだけど
寮といってもワンルームマンションのような立派なところではなく
部屋の広さは1畳半。
布団を敷いて、枕元に小さなブラウン管のテレビが置いてあるだけの
部屋というより“独房”のような空間だった。
そして入居した時に必ず言われるのが
「鍵閉めへんかったら、物盗まれんぞ。ほんで鍵閉めても物盗まれるから、貴重品は部屋に置くな」
どんな寮なんだ……。
「あと、ドアに頭向けて寝たらあかんぞ。鍵壊して入ってきて、頭潰されて物取られるぞ」
恐ろしすぎるやろ!! 映画でもそんな極悪非道なやつおらんぞ!!!
「ほんで風呂入る時、たまにオカマがおるから後ろに気をつけな、リンスでぬるっと入れられんぞ」
リンスをそんな使い方すな!!!!
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