プロレタリアの街

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第12回

不思議な共通点

「ええか兄ちゃん、納期きっちり使って間に合わせるんがほんまのプロやねんで!」

そう言って、僕が午前中に張り切った分を帳尻合わせるように、キュウホウさんはスローペースで仕事をしていた。

無駄のない動き、ただし動きはスローモーション。

まるで太極拳の達人のように、仕事をこなしてそうでこなしていない

見事なサボり方だった。

「仕事っちゅうのは、こういうふうにやるんやで」

と満足げな顔で事務所に帰ったキュウホウさんを所長は鬼神のような形相で怒鳴り散らした

「おいキュウホウ!!! お前、また現場でダラダラしとったらしいな!!! 現場からクレーム来とるやないか!! 次やったら湊川公園で寝ることなるぞ言うたの忘れたんか!!!」

まあ、あんだけダラダラしてたら怒られて当然だろう。

そのクレームのせいで、キュウホウさんは翌日から現場を外されていた。

そしてある日、キュウホウさんは会社をクビになっていた。

寮費の滞納と会社への借金が多すぎたせいだ。

どこで何をしてるんだろう……と思ってたら、本当に湊川公園で段ボールの家に住むようになっていた。

「いや~、実は今捨てられてるテレビやら電化製品を拾ってきて、それ修理して海外に売ってんねん。F産業におるより儲かるで~」

と言っていた。

ウソか本当かわからないが、逞しい人はいるもんだ。

この時の経験が落語家になっても役立っている気がする。

というか、日銭で生きているのは、このおじさんたちも僕ら落語家も変わりはない。

プロダクションによっては搾取されていることも変わらないだろうし

安い酒に対する執着心も負けていないだろう。

安い店、安い店と探し回り、一番安かったのは繁昌亭近くの「宇奈とと」で、190円のハイボールを飲みながら、うなぎを頼まず、えびせんだけで飲むことだと判明した。

おじさんばっかと飲むのは嫌なので、若者を誘って飲みに行くけど

特に共通の話題がないので昔話を聞かせることしかしなくなるのも同じだ。

景気がいい時には、いろんな仕事があって潤っているが

不景気になると一気に冷え込むのも同じ。

さすがに福ちゃんほど汚いおじさんはいないが、うちの兄弟子の桂三歩兄さんは、あのおじさんの平均値より十分に小汚い。

こないだ、たまたま会った時は新開地のおじさんより少し小汚かった気がする。

キュウホウさんの教えは、前座時代の楽屋ですごく役立った気がする。

そして、大学を卒業して以来、落語家以外の仕事をしたことがない僕も、ここから落ちてしまったら、もう行くところもできることもない。

それも同じだ。

そして何よりびっくりしたのが、新宿末廣亭などの出番をいただいて、初めて“割り”(寄席の給金)をもらった時だ。

寄席の割りは、茶封筒を半分に切った袋に半分に折ったお札を入れて渡してくれるのだけど

F産業でもらう日当とまったく同じ渡され方だったのだ!!!

もらった瞬間、所長の顔がフラッシュバックした。

まさか落語家とあのF産業がここまで共通点があるとは思わなかった。

そして何より、神戸で寄席ができた場所が新開地なのだ。

22年経って、僕は新開地に帰ってきた

F産業の所長は、もともと優秀な銀行マンだったらしいのだけど

奥さんがこのF産業の元請け会社の社長の娘さんで

会社の後を継ぐことを条件として結婚したそうだ。

銀行員とは思えないほど、めちゃくちゃ迫力があって怖かったが

僕らにはすごく優しかった。

僕が最後の現場を終えて、所長から日当を受け取り

「お世話になりました。ありがとうございました」

とお礼を言うと、所長はすごく優しい声でこう言った。

「野津くん(僕の本名)、絶対にここに戻ってきたらあかんで」

「いつでも戻っておいで」じゃなく

「絶対戻ってきたらあかんで」という言葉は

最悪、ここに戻ってきたらいいなんて甘えた考え持ったらあかんぞ

しっかりまともな生き方をするんやぞ、というエールに思えた。

落語家になった時に

うまくいかないと、またあそこに戻ることになるかもしれない――

そういう危機感を持って生きてきた。

あれから22年の時が経ち、まさか落語家として寄席でトリを務めるために

新開地に戻って来るとは思わなかった。

所長もまさか僕が新開地に戻ってきたとは思ってないだろうし

一時期バイトしてただけの大学生をいちいち覚えていないだろう。

今やそのF産業は跡形もなくなってしまっている。

あの時とは街も格段に綺麗になって

汚いおじさんもかなり減っていた。

毎日、帰り道で誘ってくる謎のいかがわしい店「しんとみ」の客引きのおっさんもいないし

「お願いだから、お兄ちゃん1杯だけ飲んでよ~」

とおねだりをしてくるオカマのおじさんももういないし

「いらっしゃいませどうぞ~、美味しいですよ~」

と、まったく気持ちのこもってない呼び込みをする中華料理屋の子供もいない。

22年前に人生の厳しさ、世の中の残酷さを知った新開地。

今になって、こんなに希望に満ちあふれる街になるとは思わなかった。

トリを務めた1週間は、落語家になって一番幸せな1週間だった。

もう戻ってくるなと釘を刺された新開地

僕は、この神戸新開地喜楽館で故郷に錦を飾りたい。

次に戻ってこれるのが楽しみすぎる。

(文中、敬称略)

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https://346katsura.com/

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  • 日程:
  •  2026年11月8日(日)
  •  開場 9:30 開演 10:00
  • 会場
  •  神戸新開地・喜楽館
  •  (神戸市兵庫区新開地2-4-13)
  •  → Googleマップ
  • 出演:
  •  桂 三四郎
  •  桂 笑金(開口一番)
  • 料金:
  •  前売 2,500円 当日 3,000円
  •  学生 1500円
  •  (全席自由席)
  •  
  • ご予約:
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