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プロレタリアの街

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第12回

壊れゆく常識

ただ、惨劇はこれでは終わらなかった。

その日も唾ねりねり左官職人は、僕に気さくに話しかけてきてくれた。

どうも若い兄ちゃんが現場にいることは珍しいので、僕らは重宝がられていたようだった。

「もういっつもおじいとばっかり顔合わせてたら、嫌になるやろ?」

という左官職人の気持ちは今になってよくわかる。

楽屋や打ち上げでおじいとばっかり話していると、何だか老け込んでくるような気がするからだ。

その日も生コンをねりねり作っていたのだが、どうも水が足りなかったらしく

下の水道のあるところから水を汲んでこなければいけなかった。

「ほな僕、水汲んできましょうか?」

日頃から缶コーヒーをご馳走してくれたりと優しいところがある職人さんなので、気を利かせたつもりだったのだが

「いや、大丈夫大丈夫。ありがとう!! これでええねん」

と言うなり、そのおじさんは生コンの入った容器の中に、おしっこをし始めたのだ!!!!!

うそやろ!!!!!!

人さまが使う建物の壁を作るコンクリの水分を、おしっこで代用するなんて!!

「いやいやいやいや!!!! それはヤバイでしょ!!!」

さすがに注意すると、左官職人はこう答えた。

「昨日はビールしか飲んでないから、大丈夫や!」

いやそういう問題じゃないやろ!!

焼酎飲んでたらあかんのか? 日本酒やったら匂いが残るのか?

そもそもおしっこで壁作ったらあかんやろ……。

そんなことは子供でもわかることだ。子供が砂場で池を作る時に、おしっこで水を溜めたら烈火のごとく怒られるだろう。

唖然とする僕を気にも留めず、左官職人はおしっこで練り上げた生コンを壁に塗り込み

見事な壁を仕上げていた。

もしかしたらおしっこの方がいい壁になるのかもしれない……。

ほかにも、床のハツリ(解体作業)の補助の時に、ハツリの機械に手を突っ込もうとしたトクさん。

「いや、あれで怪我したら、労災で100万くらい、もらえんねんで」

誰に入知恵されたのか知らないが、わざと事故を起こして労災をもらおうとしたのだ。

実際に、騒音で耳が聞こえなくなって、労災で300万もらった頭ツルツルのおじさんもいた。

しかし、持ち慣れない大金を手にしたおじさんは、新開地にいた恋人のニューハーフに金をうまいこと搾り取られ、その後、行方不明になった。

ここから落ちたらもうホームレスになるしかない。

みんなギリギリで生きているのだ。

僕はそういう現状に恐怖を抱いた。

ここで無気力になってしまって、負の空気にまとわりつかれたら、きっと不幸になる。

同じ給料でも今日を一生懸命頑張ることで、自分の持つ“気”や

運命というのを狂わせないようにしなければいけない。

そう思って一生懸命仕事をしていると、キュウホウさんというおじさんに昼休憩でめちゃくちゃ怒られた。

「何を張り切っとんねん!!! そんな頑張ったら、納期より早よ終わってまうやろ!! 現場が減ったら、みんなの仕事がなくなるねんぞ!!!」

まさか頑張ったことで、人の迷惑になることが世の中にあるとは思わなかった……。