プロレタリアの街
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第12回
- 落語
桂 三四郎
2026/08/10
搾取と希望の狭間
その寮費が1日3000円だった。いくら何でもその環境で月9万円は高すぎる。
この寮費と食費が日払いの日給から天引きされるのだ。
1万円の日給から自動的に5000円が引かれる。
ピラミッド並みの重労働で、1日5000円……。
人生って辛いな。
そう思うかもしれない。
5000円をもらえる人は、まだいい方だ。
建築現場は基本的に、日曜と祝日は休みである。
そして雨の日も仕事は休みだ。
現場のない日もある。
ただ、その休みの日も寮費はかかってくるのだ。
すると、働いた分から引かれてマイナスになる時もあって、給料がもらえない。
会社にツケという形で、ずっとそのマイナスが溜まっていく。
しかし人間は、手持ちのお金がないと生きていけない。
そういう人のために会社が1000円だけ貸してくれるのだ。
あるおじさんは、それで安い酒を飲み
あるおじさんは競馬に夢を託す。
働いても働いても手元に金は残らず、食事は黄色いご飯と木の皮の釘煮だ。
それは、僕が人生で初めて目の当たりにした搾取だった。
そんなおじさんたちが唯一楽しみにしてるのが、土曜日の仕事終わりにもらえるビール券。
このビール券を食堂のおじさんに渡すと
キンッキンに冷えたアサヒスーパードライと交換してくれるのだ。
労働の後にキンッキンに冷えたビールを流し込むおじさんたちは、1週間の労働の疲れと搾取されていることを忘れて恍惚の表情を浮かべるのだ。
まるで漫画「カイジ」の名シーン
「キンッキンに冷えてやがる。。。」だ。
ここで働いているおじさんは、若い頃から無茶ばかりしていたのか
家族から絶縁されている人が多くて
ここを追い出されたら、本当に行くところがない人たちばかりだった。
「人生は落ちるところまで落ちてしまうと、なかなか這い上がることができない」
おじさんたちと一緒に働いた時に感じた、この危機感を落語家になって22年経った今でも心に刻んでいる。
世の中を甘く見てはいけない。世間は思っているより冷たい。
このおじさんたちも怠惰なわけではなく、いい時代に建設現場で職人として働き、十分な暮らしをしていた。
しかし、建設業界が大不況になり、仕事がなくなっても日銭の暮らしで生きてきた癖が抜けず、浪費がたたり、流れ流れてここにきた人たちばかりなのだ。
その中でも、この搾取に疑問を抱き
搾取に耐えながら酒も博打もオヤツさえも我慢して
毎日の5000円を必死に溜め込み、行政の力を借りてワンルームマンションに移ったというおじさんもいた。
この話を聞いた時、地下強制労働場で日銭を溜め込み大博打に挑んだ漫画「カイジ」とまったく同じじゃないかと感心した。
なぜここまで自制と努力ができる人がここまできてしまったのだろう……。
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